宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2017年12月に読んだ本と近況

ギリギリでなんとか原稿を書いたという感じのあれでした。

先月のはこちら。

2017年11月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと

セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと

 

 1冊選ぶなら アレクシエーヴィチ『セカンドハンドの時代』。歴史のなかに埋もれた苦悶と悲痛の叫び。

 

読んだ本のまとめ

2017年12月の読書メーター
読んだ本の数:16冊
読んだページ数:5330ページ
ナイス数:167ナイス

 

遠い太鼓 (講談社文庫)

遠い太鼓 (講談社文庫)

 

 ■遠い太鼓 (講談社文庫)
 三年間にわたるヨーロッパ生活のなかでかかれたエッセイ。なんというか空間的にも時間的にも(なにせもう30年近くも前だ)離れた場所での生活のディテールが鮮明に刻印されていて、こういう文章を読むとおれも遠くに行きてえなと思うのだけど、結局のところ思うだけで何処にも行けないんだろうなとも思う。
読了日:12月05日 著者:村上 春樹
https://bookmeter.com/books/559258

 

統治新論  民主主義のマネジメント (atプラス叢書)

統治新論 民主主義のマネジメント (atプラス叢書)

 

 ■統治新論 民主主義のマネジメント (atプラス叢書)
 特定秘密保護法案や解釈改憲の問題などの時事的な話題と、歴史と密接に関わる政治的学の問題とを接続しつつ対話が進行していく。ワイマール共和国におけるナチスの台頭に関わるシュミットの思想や、ホッブスらの政治哲学がいままさにアクチュアルな価値を帯びつつある、というのが両者の認識だろうか。
読了日:12月06日 著者:大竹 弘二,國分 功一郎
https://bookmeter.com/books/9247963

 

環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態
 

 ■環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態
 地球温暖化をはじめとする環境問題は、その危機を訴える側が主張するほどには危機的状況にはないよ、というのを、危機を訴える側が依拠する資料を精査することで論証していく。危機を煽って啓蒙するという仕方のあやうさについての著書の認識はなるほどなーと。しかしもう出版からちょっと時間が経ってるわけで、類書でアップトゥデイトされたやつとか出てるんですかね。
読了日:12月06日 著者:ビョルン・ロンボルグ
https://bookmeter.com/books/522929

 

思い出袋 (岩波新書)

思い出袋 (岩波新書)

 

 ■思い出袋 (岩波新書)
 2003年から2009年にかけて書かれた随想をまとめたもの。日米開戦のおりにアメリカから日本に戻ることを決意したエピソードなど、いくつかの挿話が反復されるのが印象的で、そのようにして自らの足場を確かめるようにしているような佇まいがあった。
読了日:12月10日 著者:鶴見 俊輔
https://bookmeter.com/books/499209

 

セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと

セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと

 

 ■セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと
 ソ連崩壊後、社会主義から資本主義への移行期における人々の声を丹念に拾い集める。もちろん、ここに収められている聞き書きをある種の「典型」であるとか、象徴として読む拙速な判断は避けなければならないだろうと思うのだけれど、理念が崩壊し新たな状況が生じる、そうした場面でいかに人々が苦痛を味わったのか、そうした呻きが刻み付けられていて、読み進めるごと「ソ連崩壊後、社会は混乱した」というような教科書的な理解がいかに酷薄かを思い知らされた。
読了日:12月10日 著者:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
https://bookmeter.com/books/11164423

 

 ■世界文学を読みほどく: スタンダールからピンチョンまで【増補新版】 (新潮選書)
 スタンダールトルストイドストエフスキーからピンチョンらの文学作品について取り上げた講義録。池澤自身の実作者としての経験なんかから作品を眺める目線はやはり目から鱗。付録の『百年の孤独』読解用の資料なんかはこれだけコピーして座右に置いときたいなと思いました。
読了日:12月11日 著者:池澤 夏樹
https://bookmeter.com/books/11578638

 

漱石と日本の近代(上) (新潮選書)

漱石と日本の近代(上) (新潮選書)

 

 ■漱石と日本の近代(上) (新潮選書)
 漱石の作品を近代という時空間の文脈のなかで読み解いていく。上巻では『坊っちゃん』、『三四郎』、『それから』などが取り上げられて論じられるが、そのなかでもとりわけ本書の読みの中核にあるのは明治民法であるように思われる。法のもつ有形無形の力が登場人物をいかに拘束していったのか、という視角から読み直された漱石作品は、単に近代人の苦悩というテーマの射程を超える可能性を内在していると感じた。
読了日:12月12日 著者:石原 千秋
https://bookmeter.com/books/11778843

 

アウグスティヌス――「心」の哲学者 (岩波新書)

アウグスティヌス――「心」の哲学者 (岩波新書)

 

 ■アウグスティヌス――「心」の哲学者 (岩波新書)
 アウグスティヌスの簡明な伝記。アウグスティヌスさん、30までは割合順調っぽい出世コースを歩んでたのに結婚がらみでのトラブルがもとでキリスト教の道に入ることになったの、人生何があるのかわからんのだなって感じですね。それと夏目漱石の『こころ』もアウグスティヌスへの目配せがあるのではみたいなあとがきの指摘が印象に残る。
読了日:12月14日 著者:出村 和彦
https://bookmeter.com/books/12356856

 

漱石と日本の近代(下) (新潮選書)

漱石と日本の近代(下) (新潮選書)

 

 ■漱石と日本の近代(下) (新潮選書)
 下巻では後期の作品群が分析の俎上にあがるのだが、末尾に置かれた『明暗』論にいたって、それが未完に終わったことによって漱石が射程に収めていた「現代人」の可能性が残ったのだという結びに、ああだからこの一連の論考は「近代」の名を冠したのだなとなった。この『明暗』論から逆算して、というか『明暗』をつねに意識して、全体の叙述が編成されていたようにも感じたのでまたしばらくしたら再読しましょう。
読了日:12月16日 著者:石原 千秋
https://bookmeter.com/books/11778844

 

二都物語(上) (光文社古典新訳文庫)

二都物語(上) (光文社古典新訳文庫)

 

 ■二都物語 上 (古典新訳文庫)
 フランス革命前夜。瓜二つの顔をもつ貴族の青年と飲んだくれの弁護士のたどる数奇な運命。その二人の物語のあらましは既に知っていたのだけれど、類型的であるにもかかわらず個性的な人物たちが入り乱れ事態が展開していくのが単純に楽しい。
読了日:12月18日 著者:ディケンズ
https://bookmeter.com/books/10704634

 

僕らの社会主義 (ちくま新書 1265)

僕らの社会主義 (ちくま新書 1265)

 

 ■僕らの社会主義 (ちくま新書 1265)
 両者に共通する問題意識として、あまりにもソヴィエト連邦的なるもののイメージと不可分になってしまった社会主義を、ウィリアム・モリスら初期社会主義にまで立ち戻ってその可能性を救いとろうという感じがある。だけれど社会主義の話題が前景化しているのは序盤で、後半はコミュニティデザインや市民の政治参加の話題が中心になっている。ああこの二人の関心はそういうところで重なるのか、というのが読んでいて伝わる噛み合った対談だった。
読了日:12月19日 著者:國分 功一郎
https://bookmeter.com/books/11964206

 

「考える」ための小論文 (ちくま新書)

「考える」ための小論文 (ちくま新書)

 

 ■「考える」ための小論文 (ちくま新書)
 大学入試における小論文対策のハウツー本。そういう趣旨の本なので、文章を書くこと以上にいかに課題に対応するか、という点に力点が置かれているのだが、文章ってのは「個としての人間の生」か「現代社会のありよう」が究極的にはテーマなんだよ!と喝破していて小気味よかった。それにしても小論文入試は受けるほうも採点するほうも大変そうですね、受けたことないから他人事ですが。
読了日:12月23日 著者:西 研,森下 育彦
https://bookmeter.com/books/46731

 

 ■生と死のことば――中国の名言を読む (岩波新書)
 中国の古典から、生と死のありようについて語ったことばを引用し、解説する。漢籍由来のことばはなんというか締まりがあるというか、カッコつけて引用したくなりますね。
読了日:12月26日 著者:川合 康三
https://bookmeter.com/books/12357403

 

日本美術応援団 (ちくま文庫)

日本美術応援団 (ちくま文庫)

 

 ■日本美術応援団 (ちくま文庫)
 縄文土器から近代の油絵まで、日本美術を取り上げて「応援」する対談を所収。応援ということばの使い方に象徴されるように、美術を語る語彙の卓抜さに唸る。度々キータームとして出てくる「乱暴力」とか。美術を対象としたおしゃべりの時の語彙をなんとなく知ることができたという点で勉強になりました。
読了日:12月27日 著者:赤瀬川 原平,山下 裕二
https://bookmeter.com/books/366454

 

 ■東電原発裁判――福島原発事故の責任を問う (岩波新書)
 原発をめぐる裁判の経過と、そのさい用いられた証拠などをまとめたルポルタージュ。未だ震災と原発事故は終わってなどいないのだ、というのを強く感じる。
読了日:12月27日 著者:添田 孝史
https://bookmeter.com/books/12443603

 

所有と国家のゆくえ (NHKブックス)

所有と国家のゆくえ (NHKブックス)

 

 ■所有と国家のゆくえ (NHKブックス)
 稲葉『経済学という教養』と『資本論』、立岩『私的所有論』などに基づいて、所有と国家の機能について論じる。立岩の著作のイントロになればいいかなと思ってぱらぱらめくっていたのだけど、それぞれの立場というかスタンスが結構対照的だったので(成長か再分配か、みたいに要約すると流石に単純化しすぎている気がするが、おおよそその線)わりといい補助線が自分のなかに引かれたかなという感じはしました。
読了日:12月28日 著者:稲葉 振一郎,立岩 真也
https://bookmeter.com/books/5015


読書メーター
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近況

十年後にはなくなっているかもしれない場所のこと――国立新美術館「新海誠展 「ほしのこえ」から「君の名は。」まで」感想 - 宇宙、日本、練馬

子どもと大人、終わらないエクソダス――『OVERMANキングゲイナー』感想 - 宇宙、日本、練馬

大いなる遺産、その微かな灯火――『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』感想 - 宇宙、日本、練馬

 12月はあんまり映画館いけませんでした。残念。

 

コミケで頒布しました同人誌は、多くの方に手に取っていただけました。まだ発送作業が残っているんですが、ひとまずよい年越しができました。

 

 来月のはこちら。

 

amberfeb.hatenablog.com