宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2018年1月に読んだ本と近況

  1月はあんまり元気じゃなかったな。

 先月のはこちら。

2017年12月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

 

  一冊選ぶならこれ。勉強させていただきました。

読んだ本のまとめ

2018年1月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:5186ページ
ナイス数:176ナイス

https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly

 

定本 丸山眞男回顧談(上) (岩波現代文庫)

定本 丸山眞男回顧談(上) (岩波現代文庫)

 

 ■定本 丸山眞男回顧談(上) (岩波現代文庫)
 全集刊行にあわせて行われたインタビューの記録。大正期から敗戦前後までを扱った上巻でとりわけ印象に残ったのは、東大内部での教授陣の思想的な対立。竹内洋などがそうした力学を著作のなかで取り上げているけれど、実際その派閥のあいだで生きた丸山にとって、そうした状況はいかにして眺められていたのか、それを生々しく語っている様子が印象深かった。丸山の助手時代はファッショ的なるものが日増しに勢いを増していくまさにその最中であり、それとの対決なしに自身の研究も成り立たなかったのだなと。
読了日:01月01日 著者:丸山 眞男
https://bookmeter.com/books/11084948

 

定本 丸山眞男回顧談(下) (岩波現代文庫)

定本 丸山眞男回顧談(下) (岩波現代文庫)

 

 ■定本 丸山眞男回顧談(下) (岩波現代文庫)
 下巻は戦中から1971年の大学退職までが中心。前巻と比べると、ライフヒストリー的な語りよりは講義に関連した思想史について扱う紙幅が増えたような印象。とりわけ印象的だったのが、師匠筋の南原繁の学内政治の巧みさについての記述。上下巻通して、たとえば広島での被曝体験など、むしろ語られていないことの方が丸山自身の認識みたいなものを浮き彫りにしているような気がする。
読了日:01月02日 著者:丸山 眞男
https://bookmeter.com/books/11122883

 

語りきれないこと  危機と傷みの哲学 (角川oneテーマ21)

語りきれないこと 危機と傷みの哲学 (角川oneテーマ21)

 

 ■語りきれないこと 危機と傷みの哲学 (角川oneテーマ21)
 震災後に書かれたエッセイ。何か一つのことを主張するというよりは、震災という事件が引き起こした事態を取り上げ、自身の経験と知見とをもとに語っていくというようなスタイル。気分が抑鬱状態なせいだと思うんだけど、どうにも頭に入ってこなかった。
読了日:01月03日 著者:鷲田 清一
https://bookmeter.com/books/4596029

 

日本美術観光団

日本美術観光団

 

 ■日本美術観光団
 寺社仏閣を観光し、それを肴に対談する。投入堂とか、なかなか入れないところに入れてもらったりしてるので出版社と二人のネームバリューの強さを感じる。旅行行きたみが強く生じる。
読了日:01月07日 著者:赤瀬川 原平,山下 裕二
https://bookmeter.com/books/393811

 

漱石激読 (河出ブックス)

漱石激読 (河出ブックス)

 

 ■漱石激読 (河出ブックス)
 かつて『漱石研究』の編者だった盟友同士が、10年ぶりに顔を合わせて漱石作品を初期から晩期まで取り上げて語る。小森は世界史的な文脈からポストコロニアル批評的な視角で、石原は家族、ジェンダー論的な文脈から読みを展開するような調子で、それぞれの読み手の色が強く出ていて読ませる対談でした。

 石原がかつて小森の著作の粗製乱造ぶりを痛烈に批判していたことを思い返すと、この座組はめちゃくちゃ緊張感があるのだけれど、互いの意気投合ぶりをみるとなんとなく安心する。そして石原はテクスト論とはっきり決別したのね。
読了日:01月08日 著者:石原 千秋,小森 陽一
https://bookmeter.com/books/11647765

 

ニセ科学を10倍楽しむ本 (ちくま文庫)

ニセ科学を10倍楽しむ本 (ちくま文庫)

 

 ■ニセ科学を10倍楽しむ本 (ちくま文庫)
 『水からの伝言』やゲーム脳、血液型性格診断など、いわゆる疑似科学ニセ科学とよばれるものについて、その誤りを指摘していく啓蒙書。対話形式がとられていて、若干ご都合主義感もあるのだけれどすらすら読める。挿絵がかわいいです。文献案内もあって便利。
読了日:01月09日 著者:山本 弘
https://bookmeter.com/books/9522408

 

ニュータウンの社会史 (青弓社ライブラリー)

ニュータウンの社会史 (青弓社ライブラリー)

 

 ■ニュータウンの社会史 (青弓社ライブラリー)
 ニュータウンという場所は、「病理」と結び付けられる形で語られることがままあった。本書はそうした語りに対して、住民の実践に焦点を当てるなどしてその多面性をあぶり出すような歴史記述を試みている。農村から宅地へと変化するなかでの住民の抵抗、入居した人々が生活の不便さに対して行った実践、しかし歴史の語り自体は往々にして「開発」の成功譚へと収斂してしまいもする、という課題など、教えられるところが多かった。すでにニュータウンも歴史になりつつあるのだなあと。
読了日:01月09日 著者:金子 淳
https://bookmeter.com/books/12329901

 

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

 

 ■多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)
 単純な多数決はどうも問題がありそうだ、ということはなんとなく体感的にわかる。それでは、多数決は具体的にはどんな問題があるのか、どのような決め方が、人々の意思をより反映させることができるのか、ということを社会的選択理論を背景に考察していく。意思の反映について、あまりにも厳しい基準を課すと最早独裁制しかその基準を満たせなくなってしまう、という逆説や、コンドルセの再評価の話題なんかは特に印象に残った。
読了日:01月11日 著者:坂井 豊貴
https://bookmeter.com/books/9683705

 

憲法で読むアメリカ現代史

憲法で読むアメリカ現代史

 

 ■憲法で読むアメリカ現代史
 レーガン政権からトランプ政権誕生までのアメリカ史を、憲法を核に据え叙述する試み。憲法の解釈に大きく関わる最高裁とその判事、そして何よりその任命権を握る大統領が本書の主役ともいえる。進歩派と保守派が対立しながら憲法の解釈が次第に変化していくわけだが、そのなかでも妊娠中絶をめぐる議論の存在感に驚かされた。
読了日:01月12日 著者:阿川 尚之
https://bookmeter.com/books/12327266

 

アナキズム入門 (ちくま新書1245)

アナキズム入門 (ちくま新書1245)

 

 ■アナキズム入門 (ちくま新書1245)
 プルードンバクーニン、ルクリュら5人のアナキストを取り上げ、その生涯と思想を紹介する。アナキズムとはすなわち彼らの生き方のなかにある!と言わんばかりに伝記的な記述が厚い。主要な舞台は19世紀のヨーロッパで、社会の大きな変化のなかでいかなる思想が鍛えられたのか、という点が、相互扶助という概念を鍵として叙述されている。とにかく文章が軽妙でそれ自体読んでいて楽しいのが素晴らしいと思いました。何事も楽しくなくては、というのは本書が言外に語るアナキズムの思想であるようも思う。
読了日:01月13日 著者:森 元斎
https://bookmeter.com/books/11522596

 

ルネサンス再入門: 複数形の文化 (平凡社新書)

ルネサンス再入門: 複数形の文化 (平凡社新書)

 

 ■ルネサンス再入門: 複数形の文化 (平凡社新書)
 ルネサンスのなかに近代的な要素のみを見出し中世との断絶を強調するのでも、中世的なもなの名残をみて連続を強調するのでもなく、両者が並存するとする「複数主義史観」からルネサンスを眺める。占星術天文学に端的にみられるように、術と学との並存状況なんかはたしかに面白いと思ったのだけど、複数主義というカテゴリーは言葉遊びに過ぎないのでは、という感じがぬぐいきれなかった。
読了日:01月20日 著者:澤井 繁男
https://bookmeter.com/books/12344547

 

1968年文化論

1968年文化論

 

 ■1968年文化論
 1968年について、その文化的な側面に着目した論考が収められている。冒頭に配された四方田の小熊英二批判ははっきりいって当事者の経験を特権化する感情論でしかないという印象が強く、小熊の論に対抗するためにただ当時のアーティストの固有名を並べているだけという感じを受ける。ゲバ文字を取り上げた論考や、ラッダイト運動の文脈に1968年を置く栗原康の論考なんかは面白く読んだ。
読了日:01月20日 著者:四方田 犬彦,平沢 剛
https://bookmeter.com/books/670237

 

哲学者の誕生 ソクラテスをめぐる人々 ちくま新書 549

哲学者の誕生 ソクラテスをめぐる人々 ちくま新書 549

 

 ■哲学者の誕生 ソクラテスをめぐる人々 ちくま新書 549
 ソクラテスの対話篇をめぐる論考を所収。ソクラテスの記憶をめぐって、弟子たちがいかに言説を通して闘争したのか、というのが主題の一つとなっていて、いくつかの章は『思想』に載った論文がベースになっているので独立性が高い。最後の章では日本におけるソクラテス受容において「無知の知」という標語がソクラテス像を歪めてきたことを批判する。プラトンの対話篇にあるのは「知らないということを、知らないと思う」(知らないということを’知っている’のではない!)というニュアンスだとする。
読了日:01月21日 著者:納富 信留
https://bookmeter.com/books/24585

 

もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために

もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために

 

 ■もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために
 幕末期の尊王攘夷思想が明治に抑圧され、それが噴出したのが昭和前期であるとし、さらにそれがいま再び陳腐な形で回帰しようとしている、という見立てのもとに書かれた表題論文ほか、「明治150年」の周辺に関心を寄せた論考を収める。「内在」的な正しさに裏付けられた尊王攘夷思想は、実際に諸外国との「関係」の不可避さと直面し「尊王開国」思想へと転向したのだが、その転向が忘却されてしまったが故に、江戸から明治にかけての思想の変遷は捉えきれていない、みたいな感じだろうか。

 鶴見俊輔との思いでに触れた文章がとりわけおもしろい。加藤の語り口は鶴見に負うところが少なくないのかな、とも思う。
読了日:01月22日 著者:加藤 典洋
https://bookmeter.com/books/12248135

 

日本のメイドカルチャー史(上)

日本のメイドカルチャー史(上)

 

 ■日本のメイドカルチャー史(上)
 主に1990年代以降の日本における「メイドブーム」の変遷をたどる。美少女ゲームからはじまり、次第にSM的な要素が脱色され、また90年代の制服ブームと共振するかたちでメイド的なるもの(それは現実のメイドではなく、「メイド服」という記号にさまざまな意味が仮託されて形作られたものである)が立ち現れていった、というのが大きな見立てだろうか。力作であることは認めるが、方法論が提示されず、また編集は仕事をしたのかと疑いたくなる言い回しの拙さ、語りの散漫さは、研究書としてはかなり厳しいのでは…という感じが。
読了日:01月23日 著者:久我 真樹
https://bookmeter.com/books/12222566

 

日本のメイドカルチャー史(下)

日本のメイドカルチャー史(下)

 

 ■日本のメイドカルチャー史(下)
 下巻で扱われるのは2005年以降、「メイド喫茶」以後のメイドカルチャーについて。メイドの拡散ともいうべき事態が生じている、というのが著者の見立てであるように思うが、その記述は総花的で散漫。しかし、そのぶん情報量は膨大ではある。新書という媒体が出版社から要請されていた、とあとがきにあるが、もしそのような形で世に出ていればもっとリーダビリティが高まったのではと思う反面、本書の価値は減じたように思うし、そしてそれは書き手の資質を殺す結果になったような気もする。
読了日:01月23日 著者:久我 真樹
https://bookmeter.com/books/12222577

 

丸山眞男の敗北 (講談社選書メチエ)

丸山眞男の敗北 (講談社選書メチエ)

 

 ■丸山眞男の敗北 (講談社選書メチエ)
 丸山眞男は敗北した。何に敗北したのか。丸山眞男は戦後に負けたのだ、と著者はいう。丸山の思想を「相対の哲学」と見立て、時代の潮流に逆らってあがる凧のようなものと丸山を捉える。戦後に至って逆らう流れを失ったがゆえに、丸山の後半生は学問的には停滞したのだと。「丸山眞男の敗北」という結論ありきの論展開(これは奇しくも著者が中野敏男らポストモダン派の丸山批判の難点と指摘する点と似る)にも思えたが、それはそれとしておもしろく読んだ。

 関連

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読了日:01月24日 著者:伊東 祐吏
https://bookmeter.com/books/11079076

 

近況

こんな感じです。

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来月のはこちら。

 

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