『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』をみました。以下感想。
1971年。ベトナム戦争の泥沼化は行きつくところまで行きついていた。そんなさなか、ニューヨークタイムズはベトナム戦争についての機密報告書をスクープする。負けるとわかっていながら、アメリカ政府上層部は多額の戦費と大量の兵士とを投入し続けていた。衝撃の報道に対して、ニクソン大統領は出版差し止めを要求する。そんななか、遅ればせながら情報源を探り当てたワシントンポスト編集部は、決断を迫られる。ニューヨークタイムズの差し止めを受け、掲載を諦めるか。報道の自由のため、法廷侮辱罪の危険――それは株式を公開したばかりのワシントンポスト社の破滅すら導きうる――を犯して、記事を掲載するか。夫の死によってその座についた女社主の選択は如何に。
ベトナム戦争を分析・記録したアメリカ国防総省の最高機密文書=通称「ペンタゴン・ペーパーズ」を素材にしたこの映画の重心は、仕事に全精力を傾ける天才的記者たちの活劇ではなく、あくまで平凡な人間が危機に際していかに決断するのか、という点におかれる。メリル・ストリープ演じる社主の平凡さ、いたらなさの描写は痛ましいほど反復され、練習したことさえ実際の場面では口に出せない、私たちのごとき小市民ぶりは強調されすぎるほど強調されているように思われる。
この映画でもっとも美しく撮られているのは、新聞を印刷する活版印刷機、そしてそれをあつかう植字工たちであって、剥き出しの機能美に溢れる印刷機がきびきびと動くさまは非常に印象的なのだが、それはまさしく、この映画がヒーローが勝利する映画というよりはむしろ、日々繰り返される平凡な営みに意味が宿る、そうした映画であるからに他ならない。
天才の英雄的行為を支えるのは、天才ではない多くの人間たちなのであり、だからこそこの物語でもっとも価値ある決断は、平凡な小市民たる彼女に託されたのだ。誰しも彼女のように選び取ることはできなくとも、選び取る可能性だけは、私たちの手に留まり続けるはずである、そうした祈りがある。
平凡な人間といえば、『スリー・ビルボード』もまた、そうした平凡な人間の映画であったなあと。
ペンタゴン・ペーパーズ 「キャサリン・グラハム わが人生」より
- 作者: キャサリン・グラハム,小野善邦
- 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
- 発売日: 2018/03/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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【作品情報】
‣2017年/アメリカ
‣監督:スティーブン・スピルバーグ
‣脚本:リズ・ハンナ、ジョシュ・シンガー
‣出演
- キャサリン・グラハム - メリル・ストリープ
- ベン・ブラッドリー - トム・ハンクス
- トニー・ブラッドリー - サラ・ポールソン
- ベン・バグディキアン - ボブ・オデンカーク
- フリッツ・ビーブ - トレイシー・レッツ
- アーサー・パーソンズ - ブラッドリー・ウィットフォード
- ロバート・マクナマラ - ブルース・グリーンウッド
- ダニエル・エルズバーグ - マシュー・リス
- メグ・グリーンフィールド - キャリー・クーン
- ラリー・グラハム・ウェイマウス - アリソン・ブリー:
- ロジャー・クラーク - ジェシー・プレモンス
- ハワード・サイモンズ - デヴィッド・クロス
- フィル・ジェイリン - パット・ヒーリー
- エイブ・ローゼンタール - マイケル・スタールバーグ
- ドナルド・E・グラハム - スターク・サンズ