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欲望と地理の問題――アニメ『あさがおと加瀬さん。』感想

【チラシ付き、映画パンフレット】あさがおと加瀬さん。 監督  キャスト

 ふと『あさがおと加瀬さん。』をみたので、感想書いときます。

  高校3年になる山田さんと、加瀬さん。ぼんやりと植物を愛で、日々を過ごす山田さんと、陸上部のエースで溌溂とした加瀬さん。まったく対照的な彼女たちは、ひそかに心を通じ合わせていたのだった。

 非-東京てきなる場所を舞台に、女の子ふたりの感情と関係を描く。二人の振る舞いからは、女性同士で「付き合う」ことの屈託はあまり感じられない。たとえば志村貴子青い花』では(なぜこの作品を引き合いに出したかといえば、それはたまたま視聴している最中だからであり、それ以上の意味はない)、同性同士が強く惹かれあい「付き合う」ことに一種の後ろめたさというか、周囲の理解を得ることは難しいだろうな、という予感が、その当人たちに自覚されていた、ように思われる。それと対比すると『あさがおと加瀬さん。』のトーンはやや楽天的な調子があり、それは時代の変化を象徴しているのかもしれないし、あるいはまったくそんなものとは関係がないのかもしれない。

 ともかく、『あさがおと加瀬さん。』は、女の子同士の感情と関係のフィルムであり、山田さんにとってはおなじ学校空間を共有している男子生徒は、文字通りの意味でノイズであり、そのノイズが彼女にとっての学校空間の居心地の悪さを成形していたことは想像に難くない。この作品のなかで、学校空間は、あるいは世界は、山田さんにとって加瀬さんを中心として編成され、それ以外の事物は書割以上の存在感をもたない、とすらいいうる。友人の三河の存在感すら、次第に希薄になっていくのだし。

 この作品は、山田さんと加瀬さんの感情と関係をどのように描いていたのか。焦点となることは二つある、と思っていて、ひとつは欲望の問題であり、もうひとつは地理の問題である。欲望の問題とはすなわち、加瀬さんが山田さんに対して抱く性的な欲望にかかわるものである。山田さんにはおそらくそうした欲望がないがゆえに、この欲望は作中では成就することはない。しかし、構図としては、序盤に提示されたこの欲望の問題は棚上げにされ、いつのまにか地理の問題が前景化していくような印象になっている。

 地理の問題とは、二人が生きるいま・ここが現代日本であるがゆえに、そして非東京であるがゆえに、学校空間と不可分に浮かび上がってくる問題である。より広範な視点でながめるならば、日本社会の地形にかかわる地理の問題は、たとえば夏目漱石の作品のなかに執拗に書き込まれたものであり、そして現代のアニメのなかにも顔をのぞかせ続けるものでもあるのだが、それについてはまた別の機会に譲ろう。

 しかし、『あさがおと加瀬さん。』はその地理の問題もまた、あまりに簡単に乗り越えてしまっているようにも思われる。別にそれが悪いとかそういうことではないのだけど、彼女たちの世界で語られなかった欲望の問題と地理の問題こそ、感情と関係性の沃野だと思うので、彼女たちがいつか苗字ではなく名前で互いを名指すようになったとき、それは再び回帰するのかもしれません。

 

 

  地理の問題たち。

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【作品情報】

‣2018年

‣監督:  佐藤卓哉

▸原作:高嶋ひろみ

‣脚本: 佐藤卓哉、鈴木祐哉