宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2018年11月に読んだ本と近況

いっけないーい!師走師走ぅ!

先月の。

2018年10月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

エリアス・暴力への問い

エリアス・暴力への問い

 

  印象に残ったのは奥村隆『エリアス・暴力への問い』。『文明化の過程』をちゃんと読みましょうという気持ち。

読んだ本のまとめ

2018年11月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:4168ページ
ナイス数:170ナイス

https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly

 

知性は死なない 平成の鬱をこえて

知性は死なない 平成の鬱をこえて

 

 ■知性は死なない 平成の鬱をこえて
 うつをきっかけにして大学を退職した著者が、自身の経験とそれによって大きく変化したものの見方を語る。言語と身体という二つの軸を設定し、躁状態は言語が、うつ状態は身体が、それぞれ強烈な存在感をもつのだとする。この言語と身体という問題系で

反知性主義」の趨勢を読み解くのだが、『中国化する日本』のような挑発的な文体は影を潜め、なんとか物事を伝えようとする語りに変化していて、語られる内容以上にそれが一番心に残ったかもしれない。
読了日:11月01日 著者:與那覇
https://bookmeter.com/books/12724878

 

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

 

 ■秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)
 別々のパートナーと、それぞれ青春を過ごす小市民ふたり。闇夜に紛れる放火犯に挑む少年の姿は、『クドリャフカの順番』の谷くん的な哀れさを誘う。こういう思慮の足りなさに、小市民はたぶん少なからざる蔑みをもって対さざるを得ないと思うのだけど、どうなんすかね。
読了日:11月03日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/580073

 

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

 

 ■秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)
 そう、これらの事件はあくまで「期間限定」なのだ。いつか終わる時間とこの関係性に揺蕩い行く小市民たちの未来が、幸多いものでありますように。
読了日:11月03日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/580074

 

1789年 自由を求める時代 (歴史の転換期)

1789年 自由を求める時代 (歴史の転換期)

 

 ■1789年 自由を求める時代 (歴史の転換期)
 ある特定の年代における世界の様子を、それぞれの時代・場所を専門とする著者たちが叙述する試み。異なる専門をもつ歴史家が集まってある種のグローバルヒストリーを語ろうとする試みではあるが、少なくとも本書は5本の独立した論考が別個にある、という印象を拭えなかった。フランス革命を扱う1章、奴隷交易の変化から「自由が別の不自由を生み出してゆく」ダイナミズムを剔出する5章なんかは特におもしろく読みました。
読了日:11月07日 著者:
https://bookmeter.com/books/13042812

 

風景論-変貌する地球と日本の記憶 (単行本)

風景論-変貌する地球と日本の記憶 (単行本)

 

 ■風景論-変貌する地球と日本の記憶 (単行本)
 風景にまつわる東西の挿話を引用しつつ、写真を添えていまの我々にとっての風景とは何かを語るエッセイ。
読了日:11月07日 著者:港 千尋
https://bookmeter.com/books/13097377

 

歴史学者と読む高校世界史: 教科書記述の舞台裏

歴史学者と読む高校世界史: 教科書記述の舞台裏

 

 ■歴史学者と読む高校世界史: 教科書記述の舞台裏
 歴史学の実態と、高校における世界史教育の懸隔を主題にした論文集。旧約聖書の語りをあたかも史実のように記述していたり、またヨーロッパ中世の叙述の問題点(封建制の過度な強調、古代と近代の叙述の埋め合わせ感)や、東欧への叙述がつねにその時々の西欧に対する距離で変化していったことなど、へえーという感じでした。一番面白く読んだのは文部省の教科書検定に調査官として携わっていた経験をもとに書かれたセクションで、こんな感じで業務を進めるのかと単純な好奇心が満たされました。
読了日:11月10日 著者:長谷川 修一,小澤 実
https://bookmeter.com/books/12879722

 

 ■何のために「学ぶ」のか:〈中学生からの大学講義〉1 (ちくまプリマー新書)
 通底するのは(アンチ権威主義としての)「反知性主義」だと思うのだけど、書き手の語りによってこうまで受ける印象が違うのかという感想です。「知識を増やすと逆に馬鹿になる」式の紋切り型を語ってはばからない外山滋比古はとても有害だと思います。冒頭のこれでかなりげんなりするのだが、最後に置かれた鷲田清一の「いろんな補助線を引く」という賢さのあり方の上品さで救われます。
読了日:11月11日 著者:外山 滋比古,前田 英樹,今福 龍太,茂木 健一郎,本川達雄,小林 康夫,鷲田 清一
https://bookmeter.com/books/9017415

 

わかる・身につく歴史学の学び方 (大学生の学びをつくる)

わかる・身につく歴史学の学び方 (大学生の学びをつくる)

 

 ■わかる・身につく歴史学の学び方 (大学生の学びをつくる)
 歴史学をどうやって勉強すりゃいいの?というところから始める史学概論。高校の歴史と大学の歴史学との違いと接点みたいな話から、ゼミ発表の(教員側も含めての)苦労とか、歴史学先生が「概説書くらい読んでくれ」という時の「概説書」っていったいどういう本なのよ?とか、具体的なレベルでの学び方を説いている点に本書の特色があるように思います。わけのわからんインターネッツの読書案内に毒される前に本書を一読すべきですね。なんだその比較対象は。
読了日:11月11日 著者:
https://bookmeter.com/books/11259942

 

ドーダの人、西郷隆盛 (中公文庫)

ドーダの人、西郷隆盛 (中公文庫)

 

 ■ドーダの人、西郷隆盛 (中公文庫)
 「ドーダ」とは、「ドーダ、おれはすごいだろ、ドーダ、マイッタか?」の「ドーダ」であり、この自己愛の表出形式の変遷を辿ることで維新から敗戦に至る日本の近代史を語るというのが本書の試み。西郷式の「負けることで勝つ」的な革命家的メンタリティに支配されたことで、日本は焼け野原になったのだ、という語りに思わず説得されてしまうのが悔しい。語りの面白さに脱帽します。シニフィアン人間としての中江兆民というのもへえーという感じでした。
読了日:11月13日 著者:鹿島 茂
https://bookmeter.com/books/13125182

 

現代日本の「社会の心」 -- 計量社会意識論

現代日本の「社会の心」 -- 計量社会意識論

 

 ■現代日本の「社会の心」 -- 計量社会意識論
 社会学における社会意識論の歩みを概括し、1985年から現在に至る「社会の心」のありようを、アイデンティティオリエンテーションの二つの軸から論じる。現在、支配的な「主義」がなくなっているという素朴な(しかしリアルな)実感が計量的な調査で裏書きされていて、まあそうだよなーという感じ。「総中流」意識への変化は実は調査票の聞き方によってもたらされたのではないか、という指摘は特に印象に残っていて、相互の欲望の投射みたいなのはどんな研究においても避けがたいよなーと思う。
読了日:11月18日 著者:吉川 徹
https://bookmeter.com/books/8149185

 

エリアス・暴力への問い

エリアス・暴力への問い

 

 ■エリアス・暴力への問い
 なぜ、私はこんなにも暴力を「ふるわない」のか。そして、暴力をふだんふるわない私たちが、突然激烈な暴力ーーたとえばホロコーストのようなーーを生み出してしまうのはなぜか。そうした「文明化した私」の暴力を問うたノルベルト・エリアスの議論を辿る。ラストのSFじみた構想が強く印象に残る。迂回路としての知識。
読了日:11月21日 著者:奥村 隆
https://bookmeter.com/books/73685

 

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

 

 ■応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)
 本書の切り口の面白さは、経覚と尋尊という二人の僧の視点から、応仁の乱を眺めたことにある。興福寺というアクターがいかに戦乱と関わっていったのか、という点は、教科書的な紋切り型の理解を超えて、当時の社会の入り組んだ権力関係を教えてくれるように思う。さまざまなアクターが入り乱れているが故のことではあるが、叙述が整理されているとは言い難いとも感じる。しかし前著のようなしょーもない時事ネタギャグを封印して、ある種の退屈さと心中したことは、本書の寿命を大幅に伸ばしたと思う。
読了日:11月24日 著者:呉座 勇一
https://bookmeter.com/books/11181584

 

 ■ロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11)
 翻訳というのが一つの批評の実践であるとするならば、これほど見事な批評はなかろう。『グレート・ギャツビー』の反復としての『長いお別れ』、蘇ることを選んだギャツビーとしてのテリー・レノックス。探偵は人を殺し、あるいは他者を蘇らせる。
読了日:11月30日 著者:レイモンド・チャンドラー
https://bookmeter.com/books/643048


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近況

『デス・ウィッシュ』感想 - 宇宙、日本、練馬

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アネモネ』、『続・終物語』について何も書かなかったのはさぼり。

 

 

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