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ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』感想

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

 巷で大流行り、ナウなヤングも絶賛のユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』を読んだのでメモ的に感想。

  本書はホモ・サピエンスの歩んできた道を、数十万年規模の長大なスケールで粗描している。そのなかで著者がターニングポイントとしているのが、三つの革命。

  1. 認知革命(約7万年前)
  2. 農業革命(約1万2000年前)
  3. 科学革命(約500年前)

 本書は啓蒙書なのでいちいち脚注などついていない(参考文献はもちろんあげられているが)ので、著者がどのような研究にもとづいて議論を進めているのか確認が面倒なのだが、たとえば認知革命については、それが極めて遠く離れた先史時代の、しかも非常に抽象的かつ実証が困難なこと(「人間の認知のありようが変化した」ということを、たとえば現在生きている人ないし社会のなかでも証明するのは困難だろう)を主張しているので、それは牽強付会というか、ちょっと強すぎる仮説ではないか、という感が強い。

 しかしそれでも本書がおもしろいのは、やはり全体の見立てと語りによるところが大きいだろう。本書の語りが特徴的な点の一つは、歴史の推進力として「虚構」の占めるウェイトを非常に高く見積もっている点にある。虚構とはすなわち、椅子や机や麦のように現に存在しているわけではないが、私たちのあいだで「ある」ものとして扱われているもののことであり、それは例えば「宗教」であるとか「貨幣」であったりする。

 人々が貨幣を「信頼」することで、「信用創造」というかたちで現にあるということとはちがう仕方で価値を生み出すことができるようになった、しかもめちゃくちゃに価値を増やすことができるようになった、という話は、なるほど確かにと納得。この虚構を信じる力というのがまさに「認知革命」の産物だ、というふうに語られ、それがネアンデルタール人やらと我々ホモ・サピエンスを画する一線なのだ、というのが本書の主張の核ではないかなと思うので、たとえそれが牽強付会な仮説だとしても、どうしても認知革命の話をしなけりゃならなかったんだなというのがわかる。

 そして、本書の語りの特徴は、人類って歴史を重ねるなかで別に幸福になっているとは限らなくね?というものであり、ああ栗原康なんかが紹介していた人類学者(名前を失念してしまったんだけど)の考えってわりと影響力もってんのね、という感じ。結末は超ホモ・サピエンスの話になるので実質ウエルベック素粒子』。ほんとか?

 

 

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

 
サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福