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たどたどしい誠実さ――『新聞記者』感想

新聞記者 (角川新書)

 『新聞記者』をみました。以下感想。

  政権の度重なる違法行為。隠ぺい。圧力。それに抗い不正を正そうとする新聞記者と、若手官僚。

 これは優れた映画なのかといわれれば、素直に首肯しかねる映画ではある。目につく変なところはいくつもある。内閣情報調査室のオフィスはあまりに暗すぎだし、仕事はTwitterの更新ぐらいしかないようにも見えるし。しかし、それでも、いまここで起こっていること、そのおかしさ、尋常でなさを伝えなければならない、その意志に貫かれたこの映画を、たんなるタイムリーなネタを扱った、センセーショナルなだけの映画だと切って捨ててはいけない、とも思うのだ。

 この映画がどのような映画であるかというのは、主演のシム・ウンギョンに託されているのではないかと思っていて、彼女の、日本語を母語としない人であるということがありありと感ぜられる発話(だからダメとか下手とか、そういうことでは無論ない)は、この映画の為そうとしていること、たどたどしくも誠実に何かを語ろうとしていることと大きく重なっている、という気がする。

 そんなことを言い出したら、圧倒的な現実をカメラという目で切り取ることで現実をフィクションに加工=仮構していく『シティ・オブ・ゴッド』の冷めた目線、血まみれの現実をあえてフィクションというかたちに生々しく落とし込んだ『エリート・スクワッド』、またスーパーヒーロー映画、それも長期間続いたシリーズ物の区切りの作品でありながら、いまを写し取りそれと見事に対峙した『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』の恐るべきクレバーさと比べて、フィクションであることの、フィクションとして語られることの利を十分に活かしているとはいえない、とも思う。しかしそれでも、『スポットライト 世紀のスクープ』や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』という適切な参照先を踏まえて、よくこういう映画をつくってくれたと思うし、それはやっぱりえらいと思う。えらい。

 

 

新聞記者 (角川新書)

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