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映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

『とらドラ!』感想

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 『とらドラ!』を久方ぶりに再見していたので感想を書いておきます。

  隣り合った家に住む少女と少年。奇妙にねじれる恋と友情。竹宮ゆゆこの原作を監督・長井龍雪、脚本・岡田摩里、キャラクターデザイン・田中将賀の座組でアニメ化。のちに『あの花』でブレイクし、2019年にいたるまで継続的に作品を発表していくトリオの出発作であるこの『とらドラ!』は、原作の魅力を引き出し、2クールという時間を活かしてキャラクターの魅力を巧みに彫琢した快作であったと改めて感じた。

 逢坂大河というキャラクターは放映当時は一部に強い拒否反応を引き起こしたという気がするのだが、再見したいまその理由がなんとなく感得できたという気がする。有形無形の暴力をためらうことなく振るい、高須竜児や川嶋亜美を躊躇なく罵倒するその様は、いかに記号的な相貌をまとっているとはいえ、あまり快いものではない。わたくしは竹宮氏のよい読者では全然ないのだけど、『わたしたちの田村くん』や『知らない映画のサントラを聴く』においても、女性がカジュアルに暴力をふるう場面が散見されるので、ある種の手癖なのだどうなとは思う。

 とはいえ彼女の暴力性は後半になるにつれ後退してゆき、自然我々が彼女に向ける視線の質もまた変容してゆくので、ここらへんの誘導は非常に巧みであるとも感じる。後半にはサブキャラクターたちも含め、他者へと向けられる感情の矢印があらわになっていき、そのことが生じさせる緊張状態が作劇における暴力の必要性を後退させている、とも感じる。

 思春期の少女・少年が他者へ向ける感情のままならなさ、という主題は竹宮のデビュー作である『わたしたちの田村くん』の反復であるのだが、この『とらドラ!』はそうしたままならなさを輻輳的に教室空間のなかに織り込んでみせたことにその巧みさがある。その作劇の技術こそ、岡田がこのあとのフィルモグラフィのなかで独自に磨いていくものの原石なのかもしれない。

 

 

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