消えた八月。
先月の。
印象に残った本
一冊選ぶなら『マルドゥック・アノニマス5』。現在進行形のフィクションのうち最高のものの一つと思いますよ、わたくしは。
読んだ本のまとめ
2020年8月の読書メーター
読んだ本の数:16冊
読んだページ数:4344ページ
ナイス数:148ナイス
https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly
■本と鍵の季節
図書委員の男子高校生コンビを主役とする連作短編。「古典部」や「小市民」のように挿話が積み重なってキャラクターが固まったシリーズではなくこうして新たな舞台が要請されたのは、その主役に何か大きな負荷をかけたかったからに違いなく、その期待はなるほど見事に成就されます。
読了日:08月02日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/13218607
■「自由主義史観」批判―自国史認識について考える (岩波ブックレット (No.505))
本書が出たのはいまから20年前だが、藤岡ら歴史修正主義者はコミンテルンの陰謀論にさらに傾斜を深め教科書検定で排除されてしまった現在からみると、西尾幹二は曲がりなりにも勉強してたんだなと変な感動をおぼえる。アンチアカデミズムの行き着く先が「すべてコミンテルンが悪い」の陰謀論になるとは、永原も想像もしなかっただろう。
読了日:08月02日 著者:永原 慶二
https://bookmeter.com/books/384140
■偽史と奇書が描くトンデモ日本史 (じっぴコンパクト新書)
背に大きく原田実の名前があったので手に取ったのだけど、原田は監修者で中身は編プロの仕事で、雑誌の一特集を拡大しましたみたいな塩梅。1項目数ページが割り当てられるカタログ的な構成。参考文献の書き方はもうちょっと誠実にできないものかと思う。
読了日:08月02日 著者:オフィステイクオー
https://bookmeter.com/books/11494254
■毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)
ミステリ愛好家による推理合戦という趣向は、今となってはそれほど珍奇に感じないが、その新味のなさこそが本書の偉大さの証明なのだろうなとは思う。
読了日:08月06日 著者:アントニイ・バークリー
https://bookmeter.com/books/566888
■幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
自身のアリバイを証明するはずの女は幻のように消え、死刑宣告を待つばかりの男。それぞれに友人のために奔走する男と女は、「幻の女」を見出せるのか。結末は見事に予想を裏切ってくれて大変楽しみました。
読了日:08月07日 著者:ウイリアム アイリッシュ,William Irish
https://bookmeter.com/books/10088077
■藤森照信 現代住宅探訪記
いやー、リッチ!これらの住宅に住むという経験はちょっと想像しがたい。
読了日:08月08日 著者:藤森 照信
https://bookmeter.com/books/14882864
■危機に立つ東大 (ちくま新書)
タイトルに「東大」とあるが本書が論じるのは大学教育にかかわる問題で、秋入学問題、文系学部廃止問題、英語民間試験問題、国語記述式問題をめぐる問題の四つのトピックがあつかわれる。著者はいずれも、「目的と手段」が逆転し、その手段を実現すること自体が目的化していることを批判する。近年の教育「再生」の試みの不毛と勘違いとがかなり簡明に整理されていて、勉強させていただきました。
読了日:08月14日 著者:石井 洋二郎
https://bookmeter.com/books/14960911
■マルドゥック・アノニマス4 (ハヤカワ文庫JA)
この4巻および次巻はウフコック奪還編ともいうべき挿話だが、驚くべきはその構成。このようにして過去と現在を見事に交錯させ、かつ求心力をいささかも損じない語りがありうるのかと打ちのめされる。冲方丁という書き手の恐るべき野心、そしてとてつもない速度で加速していくテクストを統御する圧倒的な握力。いま最もおもしろいフィクションの一つでしょう。
読了日:08月16日 著者:冲方丁
https://bookmeter.com/books/13529286
■マルドゥック・アノニマス 5 (ハヤカワ文庫JA)
前巻に引き続き、ウフコック奪還のためにエンハンサーどもが熾烈な戦闘を繰り広げ、かつその現在に至るまでの道程が次第に明らかにされてゆく。ハンターという男を制御しようとする力とハンターそのものが自律してゆこうとする力、それはこのテクストに内在する緊張関係が端的に現れているポイントに他ならず、冲方丁という書き手の真価=進化はそこに賭けられている。破格の小説だと思います。
読了日:08月16日 著者:冲方 丁
https://bookmeter.com/books/15602866
■象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
圧倒的な舞台設計力と、ドラマを自在に二転三転させる腕力にぶちのめされました。ミステリ仕立ての「デュオ」、「あなたの人生の物語」を想起させるモチーフからとてつもないカタストロフまで一足飛びに飛躍する表題作がとりわけ好みです。
読了日:08月22日 著者:飛 浩隆
https://bookmeter.com/books/580727
■渡辺一夫 敗戦日記
敗戦前後に書かれた日記およびエッセイを所収。たとえば山田風太郎の日記と比べると生活のディテールにはきわめて乏しいが、その分内省と怨嗟の声がダイレクトに書き込まれていて、それがとにかく読ませる。エッセイはとりわけ「過激で愚劣な夢」が白眉です。
読了日:08月23日 著者:渡辺 一夫
https://bookmeter.com/books/3353
■民主主義の条件
民主主義が機能するためには、政党が機能しなければならない。そのためには選挙制度の適切な設計が必要で、そうでなければ政党が有名無実化し、一貫した意思決定が困難になる、というのが本書の骨格にある主張。しかし、その選挙の設計を利害関係者である議員がやってるっていうのがあれやな〜となりますわね。
読了日:08月26日 著者:砂原 庸介
https://bookmeter.com/books/9582861
■芸術人類学講義 (ちくま新書)
多摩美術大学の芸術人類学研究所の教員によるアンソロジー。鶴岡真弓、平出隆、安藤礼二、椹木野衣の四人がそれぞれ自身の関心のイントロダクションを書きつづったという印象。岡本太郎から石子順三論に至る椹木の文章をとりわけおもしろく読んだ。
読了日:08月29日 著者:
https://bookmeter.com/books/15280118
■「宿命」を生きる若者たち: 格差と幸福をつなぐもの (岩波ブックレット)
努力すれば成功する的な努力主義と自己責任論が結びついた結果、将来に対するぼんやりとした諦めを内包する宿命論が蔓延っている、とする。意識調査のデータの引用は手堅く、一方その解釈を敷衍しようとするとアクロバット的な挙措をともない、結果社会学の研究というよりは批評的なあじわいになっている(それがいい悪いは無論別問題ですが)。
読了日:08月29日 著者:土井 隆義
https://bookmeter.com/books/13873267
■作家の値うち
福田和也の目利きは確かだと思う。高橋源一郎評なんかはまったく正しい。流石に一昔前の作家のラインナップだなというのは拭えないので、現在版を読みたいところだけれど、それこそこれを読んだ一読者の義務と責務として各々書くべきなのだろうなとは思う。
読了日:08月30日 著者:福田 和也
https://bookmeter.com/books/522718
■石原慎太郎を読んでみた - 入門版 (中公文庫)
石原慎太郎の代表作を肴に対談する。入門編とはいえ、もう少しボリュームがあれば…というのが正直なところですが、評価すべきとこらは評価し、そうでないところは徹底的に貶す姿勢に好感。最後に登場する石原慎太郎本人の度量の大きさになんだか意外の感あり。おもしろく読みました。
読了日:08月30日 著者:栗原 裕一郎,豊崎 由美
https://bookmeter.com/books/12544048
近況
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