宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2020年9月に読んだ本と近況

元気です。

先月の。

2020年8月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

師匠、御乱心! (小学館文庫)

師匠、御乱心! (小学館文庫)

 

  一冊選ぶならこれ。ほんと、落語家ってのは身の内に無数の物語を飼っている語りのスペシャリストやなあと。

amberfeb.hatenablog.com

 

読んだ本のまとめ

2020年9月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:4114ページ
ナイス数:131ナイス

https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly

 

新装版 - 風よ、万里を翔けよ (中公文庫)

新装版 - 風よ、万里を翔けよ (中公文庫)

  • 作者:田中 芳樹
  • 発売日: 2016/03/18
  • メディア: 文庫
 

 ■風よ、万里を翔けよ (中公文庫)
木蘭の説話に取材し、隋末の混乱期を舞台に皇帝の破滅と男装の兵士の活躍とを描く。著者が初めて書いた中国史の小説であり、それゆえの力みのようなものを随所に感じるし、煬帝の放つ腐敗した魅力に引き換え、木蘭の活躍はやや淡白にも感じられる。しかしそうした欠点を補って余りある出来事の吸引力、隋末の勇者どもが現れては消えてゆく群像の描き方の巧みさよ。大変おもしろく読みました。
読了日:09月01日 著者:田中 芳樹
https://bookmeter.com/books/541533

 

 ■マックス・ヴェーバー――主体的人間の悲喜劇 (岩波新書)
マックス・ヴェーバーのコンパクトな伝記。カトリックを見下しポーランド嫌いで西欧中心主義の、ドイツナショナリストとしてのヴェーバーという像は、この巨人もまた否応なしに時代の制約のなかで思考していたのだと改めて気付かされる。山之内靖らの「近代批判者」としてのヴェーバー像を批判する、ある種の脱神話化の試みとしておもしろく読みました。
読了日:09月03日 著者:今野 元
https://bookmeter.com/books/15765583

 

江藤淳と大江健三郎 (ちくま文庫)

江藤淳と大江健三郎 (ちくま文庫)

 

 ■江藤淳大江健三郎 (ちくま文庫)
 江藤淳大江健三郎、戦後の文壇の中で交差しやがて袂を分かった二人の伝記。とにかく丹念に座談などの発言を拾い集めている労作でありつつ、小谷野敦の私的な読書経験もまた適宜挿入される私小説的な芸が披瀝され、退屈さと無縁のおもしろさ。江藤の不幸と大江の幸運とがやや対比されている、という気もする。
読了日:09月10日 著者:小谷野 敦
https://bookmeter.com/books/13000941

 

日本ファシズム論争 ---大戦前夜の思想家たち (河出ブックス)

日本ファシズム論争 ---大戦前夜の思想家たち (河出ブックス)

  • 作者:福家 崇洋
  • 発売日: 2012/06/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 ■日本ファシズム論争 ---大戦前夜の思想家たち (河出ブックス)
 イタリアに生まれドイツを席巻したファシズムが、日本ではいかに解釈され読み替えられてきたのか、その受容史をたどる。語りは手堅く、資料を丹念に集めた労作と感じます。
読了日:09月10日 著者:福家 崇洋
https://bookmeter.com/books/5150317

 

21世紀の落語入門 (幻冬舎新書)

21世紀の落語入門 (幻冬舎新書)

 

 ■21世紀の落語入門 (幻冬舎新書)
 落語を聴くなら寄席に行け!的現場主義を排し、かつ過去の名演だけ聴けばいいというのも否定する、著者の中庸ぶりが意外の感あり。小谷野にとってどのような落語が「よい」のか、というのをかなり直裁に語っていて、非常に誠実な本だと思いました。
読了日:09月12日 著者:小谷野 敦
https://bookmeter.com/books/5100927

 

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

 

 ■なめらかな世界と、その敵
 ほとんど内輪受けのおしゃべりのごとき主題や語彙にやや辟易の感があり、こうした閉じた小説を褒めそやしているようではほんとうに優れたテクストが書かれることはないのではないか、と思う。内輪受けのおしゃべりが悪いとはいわないが、小説を書くことの義務と責務は、ほとんど暴投を厭わない蛮勇で持って力の限り球を放ることなのだと、わたくしなどは信じるのです。これをありがたがっているようでは先はねえぞ、日本語SF。
読了日:09月13日 著者:伴名 練
https://bookmeter.com/books/14088594

 

 ■御乱心―落語協会分裂と、円生とその弟子たち
 三遊亭円生落語協会を脱退し、弟子たちと共に新協会を立ち上げた。その弟子の一人が語る、その騒動の悲しい顛末。さめた目で見つめた円生論でもあり、憎しみのこもった円楽論でもあり、またまたどストレートの私小説でもあり。人間関係の悲哀に満ちた仁義なき戦いを書く試みは、あるいは師匠=父殺しの手段であったのかもしれず、とにかくおもしろく読みました。
読了日:09月14日 著者:三遊亭 円丈
https://bookmeter.com/books/516375

 

 ■後藤田正晴と矢口洪一: 戦後を作った警察・司法官僚 (ちくま文庫)
 対比列伝という副題が語るように、本書の関心は後藤田正晴と矢口洪一という二人の人物のパーソナリティにあるように思う。警察と司法、それぞれで大きな役割を果たした二人であればこそ、それがより大きな組織ないし歴史を形作ってきた、というダイナミズムは理解できるのだが、より大きな文脈が鮮明に浮かび上がってくるような語りであったなら、とやや感じた。後藤田と矢口の個性を彫琢する語りに徹するあまり、そうした大きな絵が、やや後景に退いているとの印象。
読了日:09月15日 著者:御厨 貴
https://bookmeter.com/books/11054388

 

景観からよむ日本の歴史 (岩波新書)

景観からよむ日本の歴史 (岩波新書)

  • 作者:金田 章裕
  • 発売日: 2020/07/18
  • メディア: 新書
 

 ■景観からよむ日本の歴史 (岩波新書)
 日本各地の特徴的な景観がどのように形成されてきたか、古地図や文書資料などを駆使して探求する。今までそれほど意識せずに観光したり通り過ぎたりしてきた場所も、現在に至るまでそれぞれの歴史を積み重ねてきたのだなあと改めてしみじみ思う。著者の専門はオーストラリアというのをあとがきで知り驚くが、ゆえに本書の対象とする日本の景観は素人にもわりとキャッチーなものがチョイスされてる、ような気がしました。
読了日:09月16日 著者:金田 章裕
https://bookmeter.com/books/16115108

 

江戸幻想批判―「江戸の性愛」礼讃論を撃つ

江戸幻想批判―「江戸の性愛」礼讃論を撃つ

  • 作者:小谷野 敦
  • 発売日: 2008/12/12
  • メディア: 単行本
 

 ■江戸幻想批判―「江戸の性愛」礼讃論を撃つ
 「近世の娼婦は聖なる存在だった」とする佐伯順子の見立てが学問的な論証を全く経ていないこと、そしてそうしたトンデモが無批判に受容され、近代のアンチテーゼ、ユートピアとしての江戸時代という「江戸幻想」が広まっていることを痛烈に批判する。この新版でボリュームはおよそ2倍くらいになっていて、旧版刊行後に著者が書いた論考などが収められている。こうした事実と乖離した江戸像を広めてしまった江戸ブームの当然の帰結として、「江戸しぐさ」みたいなものの跋扈はあるのだろうな、とちょっと思う。
読了日:09月16日 著者:小谷野 敦
https://bookmeter.com/books/485837

 

宗教に関心がなければいけないのか (ちくま新書)

宗教に関心がなければいけないのか (ちくま新書)

  • 作者:小谷野 敦
  • 発売日: 2016/02/08
  • メディア: 新書
 

 ■宗教に関心がなければいけないのか (ちくま新書)
 宗教や死生観についてとりとめなく語ったエッセイ。小谷野敦のテクストを読むとなんかこのくらいの攻撃性は発揮してもいいのかなという気になってくるが、私小説書き的に生きる覚悟がない人間はこのようにはできんなという気持ち。小谷野が池内恵を高く買っているのは非常によくわかる。池内もまた、学者か私小説書きとして生きるしかなかろうという感じがあるので。
読了日:09月22日 著者:小谷野 敦
https://bookmeter.com/books/10176713

 

芥川賞の偏差値

芥川賞の偏差値

 

 ■芥川賞の偏差値
 点数でなくて偏差値というのがキモで、42〜52くらいにボリュームゾーンがあり、たまーに70超とかが出てきて驚く。審査員の入れ替わりとかに目配りがされていて、その点とくにおもしろく読みました。
読了日:09月24日 著者:小谷野 敦
https://bookmeter.com/books/11302176

 

韃靼疾風録〈上〉 (中公文庫)

韃靼疾風録〈上〉 (中公文庫)

 

 

■韃靼疾風録〈上〉 (中公文庫)
 中国東北部に住むという女真族の公主の娘を送り届ける主命をもつ平戸の武士が、大陸を席巻せんとする強烈な疾風に巻き込まれる。とにかく巨大なユーラシアの大地を、細かなディテールの積み上げによって彫琢していく語りが見事というほかなく、このような小説を書けたら本望だろうという気がする。
読了日:09月29日 著者:司馬 遼太郎
https://bookmeter.com/books/574691


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近況

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来月の。

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