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少年は新たな場所に立つ——『ツルネ -風舞高校弓道部-』感想

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 『ツルネ -風舞高校弓道部-』をぼちぼちみていて、昨日最終話をみました。以下、感想。

  弓道。スランプに陥った少年。不意の出会い。そして再び、少年は弓を引く。

 数々の京都アニメーション作品で演出・原画などをつとめてきた山村卓也初監督作品。脚本は『SHIROBAKO』などをてがけたベテラン、横手美智子。キャラクターデザインは『境界の彼方』の門脇未来。主人公の少年はアニメ的な記号性に乏しく、派手さに欠けるデザインだが、それを主役にもってくるのはある種の挑戦だったろうと推察する。

 弓道という(おそらく)今までアニメでクローズアップされてこなかった競技を題材にした青春群像劇。作劇上で超自然的な要素を排し、入学から最初の大会までを描く、という構成は『響け!ユーフォニアム』と相通ずる。吹奏楽という比較的なじみがあり、また演奏という明確な見せ場が演出できるという利があった『ユーフォ』と比べると、この『ツルネ』はよりチャレンジングな競技を選んでみせたという気がする。

 また、「早気」というある種のイップス、スランプ状態を取り上げたことも挑戦的な試みだったろう。イップスの感覚は当人以外にはわからないもの、というのはしばしば指摘されることだが、その「わからなさ」の感じと非常に誠実に向き合っていたと感じるし、それはこの作品の美点の一つだろう。また、最終話などの手に汗握る攻防は弓道という競技の緊張感を見事に伝えていたし、京都アニメーションの挑戦はひとまず成功裏に終わったといってもよいと思う。

 さて、京都アニメーションが執拗に反復しているのは我々の「居場所」をめぐる物語だと思うのだが、この『ツルネ』の物語上で極めて重要な役割を果たすものが、射場での主人公の立ち位置である、という点は示唆的だろう。彼がかつて、的の前に立っても恐怖しなかったのはなぜか、そして今途方もない恐ろしさに襲われているのは何故か。このあたりの展開はややロジックがあまりに明瞭すぎる感じもするというか、ドラマの核心部分を言葉にゆだねてしまっている点が惜しいとも感じるのだけど、彼がかつて安住した立ち位置への憧憬を断ち切り、まったく新たな場所に立つ・立っていると気付く、その瞬間にクライマックスをもってくる(この時点で彼にとって勝敗はそれほど意味を持たないわけですから)のは流石だと思いました。

 「隠された過去」の使い方がやや安易で、彼ら・彼女らの現在は本来もっと(そのような隠された過去の支えなどほとんど必要としないほどに!)それ自体で充実したものだ、という気がややするのだけど、少年が新たな居場所を見出す物語としてよくまとまっていて、見ごたえのあるアニメであったと思います。

 

ツルネ -風舞高校弓道部- 第一巻 [Blu-ray]
 

 

関連

  「居場所」については以下の個人誌で書いたんですが、『Free!』をみていないという宿題がまだ残っており、いつかは消化したいところです。

amberfeb.hatenablog.com

 

 『響け!ユーフォニアム』1期の大きな美点は、「隠された過去」など頓着せず、それ自体の強度が充溢する現在でドラマを完結させた点(1期のドラマは冒頭の「涙」の謎がすべてなわけですから)にあると思います。2期はやや「隠された過去」頼み

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 異様な強度が充填された「現在」といえば、この作品しかありえないでしょう。

 

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