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わたしたちの魔法、記憶と想起——『魔女見習いをさがして』感想

おジャ魔女どれみ20’s 馬越嘉彦 Illustrations+

 『魔女見習いをさがして』をみました。めちゃくちゃ奇妙な味わいの映画なんですが、いや、めちゃよかったです。以下、感想。

  『おジャ魔女どれみ』。1999年に放送が始まり、いまの30歳前後の世代の記憶に残っているだろうテレビアニメ。20年を経てなお、そのアニメに心惹かれる3人が出会い、物語が始まる。不思議な魔法の力は、三者三様の問題を抱える彼女たちを救うのだろうか。

 『おジャ魔女どれみ』20周年記念作品として制作された、『おジャ魔女どれみ』の視聴者だった3人を主役に据え、『おジャ魔女どれみ』ゆかりの地を旅するロードムービー仕立てという、アニメ映画ではちょっと類例がないのではないか、という超絶変化球。監督は『おジャ魔女どれみ』1期のシリーズディレクターであった佐藤順一と、『プリキュア』など東映作品で演出をつとめてきた鎌谷悠の連名。

 キャラクターデザインは言わずと知れた馬越嘉彦。馬越のデザインが『おジャ魔女どれみ』の連続線上にあることで、現実世界の3人の女たちと、フィクションの世界の住民たる『おジャ魔女どれみ』の登場人物たちとの境界は曖昧なものになっている。現実世界のキャラクターの表情や所作もアニメ的・記号的で、とりわけ表情は『おジャ魔女どれみ』的に大胆な誇張がなされる。そうしたキュートなキャラクターの魅力によって、映画という短い時間のなかで我々がキャラクターに対して絶妙に愛着がわいてくるつくりになっていて、その点でこの映画は成功していると思う。

 そのように、キャラクターの描写という意味では現実とフィクションの境界は曖昧であるのだが、作劇上はおおむね現実とフィクションとのあいだに明確な線が引かれてもいる。これは不思議な感触のリアリティだと感じるが、しかしそれは、我々にとって「魔法」、ないしフィクションとは何か、という問いに誠実に答えるために、必然的に要請されたものでもあるだろう。

 劇中で「魔法」の力に頼ったときに生じる事態は、極めてアンチ・クライマックス的なそれであって、魔法の力で彼女たちの抱える問題は解決したりしないし、願いが成就したりもしない。むしろ人間関係に軋みが生じるきっかけになったりもする。作劇上、このように「魔法」を位置付けることは大きな勇気が必要だったのではないか、と推察する。「魔法」で事態が好転!という事態は極めて安直だが、記号的な作品世界で許容される程度の「お約束」ではあるだろう。途中までその「お約束」に沿っているかのように錯覚させるような展開を見せた後、むしろ「魔法」の不如意さを突き付けるような結果に終わることは、我々の現実世界において、フィクションのような仕方では「魔法」は機能してくれない、ということを作品世界において追認するためになされなければならなかった。

 それではこの作品世界、ないし我々の現実世界において「魔法」とはいかなるものなのか、という問いに対して、この『魔女見習いをさがして』は、それは結局のところ、彼女たちが意志して行動すること、それに時折与えられるかもしれない別名なのだ、と答える。作中で引用される『おジャ魔女どれみ』の挿話が、空想上の魔法によってもたらされる奇跡ではなく、むしろありふれた言葉を告げる勇気の尊さを伝えるものであったことは、『おジャ魔女どれみ』が語っていたのは空想上の魔法であったと同時に、むしろありふれたもう一つの「魔法」なのだ、と我々に教える。

 さらに敷衍するとするならば、そうしてフィクションを記憶し、想起し、そしてその意味を自在に読み替えうる我々の営為もまた、フィクションという魔法にかかわる実践なのかもしれない。『おジャ魔女どれみ』を縁につながり、そして現実世界をほんのすこし変えていくかもしれない彼女たちの物語が、現実世界における我々の似姿である、とまでは言わない。しかしフィクションの記憶と我々の人生とを時に軽率に結び付けてゆくこともまた、我々に許されたささやかな魔法なのだ。

 

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【作品情報】

‣2020年

‣監督:佐藤順一、鎌谷悠

‣脚本:栗山緑

‣キャラクターデザイン・総作画監督馬越嘉彦

作画監督:中村章子、佐藤雅将、馬場充子、石野聡、西位輝美、浦上貴之

‣音楽:奥慶一

‣アニメーション制作:東映アニメーション

‣出演