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『泣きたい私は猫をかぶる』感想

泣きたい私は猫をかぶる (角川文庫)

 Netflixで『泣きたい私は猫をかぶる』をみました。『魔女見習いをさがして』で佐藤順一氏への信仰心が高まったのかもしれません。以下、感想。

  家を出た母親。どうやら再婚したいらしい父親。同居する父親の恋人。なつかないその猫。空回りする恋心。不穏なお面屋に導かれ、猫に変身する私の身体。

 監督は佐藤順一と柴山智隆。脚本は岡田磨里。キャラクター原案は新井陽次郎で、そのキャラクターを中心とするルックは、これまでのスタジオコロリド作品との連続性を強く感じさせる。素朴な味わいでよく動くキャラクターは、間違いなくこの作品の魅力だろう。愛知県常滑市をモデルにした背景美術は味わいがあり、もし劇場の大スクリーンに映し出されたなら大きな快をもたらしたのではないか、という気がする。

 そうしたスタジオコロリド的なルックに、岡田磨里的な生々しさが乗っかっている点は新鮮で、このキャラクターであるがゆえに、複雑な家庭の事情に悩む少女の姿がそれほど深刻に映らないという点にやや救われる。母との関係は岡田の(特に隠す気もない)オブセッションだと思うのだけど、超現実的なファンタジー要素を全面的に導入することで、その生々しい感触はだいぶ中和されている感じがして、最後もまあそういう風に落ち着いてよかったね、となる。

 だがその超現実な道具立てはこの作品の足を引っ張っているという気がして、現実を猫の姿でうろうろするあたりは非常におもしろいのだけど、猫の異世界のパートは、美術も展開もやや陳腐な感しが否めない、と感じた。これは奇しくも『猫の恩返し』の印象とほとんど同じで、すこしふしぎな現実世界は非常にいきいきとしているのに、フィクショナルな別世界に舞台が移ると途端に書き割りのようになってしまう。この作品も『猫の恩返し』も、現実世界の美術・人間の所作が巧みに描写されているがゆえに、そのギャップが余計に気になるのだろうとは思う。

 『猫の恩返し』ついでに、ラスト間際、消えゆく異世界の風景を二人で眺めるカットなんかは非常によくて、この構図と交わされるありふれた言葉は、『耳をすませば』を否応なしに想起させるわけです。ありふれた青春ドラマとしてはちょっと岡田磨里のアクが強すぎる(「無限大謎人間」とか「日の出サンライズ」とかの造語とか、岡田磨里~ってなるじゃないですか)とは思うけど、魅力はあると思うので、こう長く愛される作品になるといいっすね。なんだこの締めは。

 

 

泣きたい私は猫をかぶる (角川文庫)

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盗作(通常盤)

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  • 発売日: 2020/07/29
  • メディア: CD
 

 

 

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