アニメ版『ジョゼと虎と魚たち』をみました。ルックがとにかく心地よく、またクリスマスシーズンともマッチした秀作であったと思います。以下感想。
車椅子、操縦が不如意となり坂道を猛スピードで下る少女。偶然通りかかり、すんでのところで彼女を受け止めた男。まったくちがった人生を歩んできた、まったくちがう夢を追う二人の人生が交差する。
田辺聖子の同名短編を原作としたこのアニメ映画は、犬童一心監督による実写映画版もそうであったように、大きな脚色を施している。「車椅子の少女」というモチーフ以外は印象的な台詞や場面等の面影が垣間見られる程度。アニメ映画版の脚色の雰囲気は実写映画版とも大きく異なり、セクシャルな要素をほとんど画面から追放することで、より間口の広いウェルメイドなラブストーリーに仕立てている。
脚本は『滑走路』の桑村さや香。三角関係をソフトに密輸するなど作劇的なメリハリをつける工夫は随所に感じられ、健常者と障がい者という関係性について何かを語ろうとした形跡も認められる。しかし、自身も障がいを背負った途端、「障がいを背負う」ということをほんとうには理解していなかったのだ、と突き付けられる展開などはなんというかいかにもお行儀がよすぎる感じもするし、ハンディキャップが交換可能な記号として弄ばれているという印象すら与えかねないのでは、という気もする。「ほんとうにはわからない」(でも少しだけならわかる気がする*1)というのが、少なくともいまのわたくしにとってとりうる、ぎりぎり誠実な態度という気がいまはしている。この幸福なおとぎ話を心底祝福してよいものか、という逡巡がないといったら嘘になる。
しかし、この映画の魅力はなんといっても見事に設計されたルックであろう。『天気の子』などコミックスウェーブフィルム作品を彷彿とさせる、現実感のある稠密な背景美術に、ほどよく記号的にキュートなキャラクターたちが違和感なくマッチした画面は非常にリッチである。画面設計としてクレジットされている川元利浩ほか、様々なポジションの作り手の貢献によってこうした画面が設計されているのだろうと推察するが(逆に、クレジットからどのポジションの貢献の度合いが大きいのか、作品をみただけではちょっとわからない)、画面が見事にコントロールされているな、という感じが最後まで持続するので非常に心地よい。
また、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』の絵本奈央のキャラクターデザインはスマートかつキュートで魅力的だが、とりわけヒロインの少女、ジョゼの造形は優れていると感じる。自己防衛のために高飛車な態度をとってしまうが、一方で他者との接触に強い恐怖感をもつ、そういうキャラクター性を絵で納得させ、かつそうしたある種の鋭さに愛着を感じさせてしまう力がある。『とらドラ!』の逢坂大河をよりリアルな方向に軟着陸させたような趣があり、しかもそうした「ツンデレ」的記号性からは逃れることにも成功している。そして逢坂大河が釘宮理恵抜きに成立しなかったように、ジョゼもまた、清原果耶によって魂を吹き込まれなければ存在しえなかっただろう。大きな見せ場である朗読会が見せ場として成立しえたのは、ひとえに彼女の声に宿った切実さ故である。
彼女がこの世界でいつまでも幸福であってほしい、なんとなくそう願ってしまえるだけのキャラと世界の強度がある、それは一つの達成でしょう。
【作品情報】
‣2020年
‣監督:タムラコータロー
‣脚本:桑村さや香
‣演出:
‣キャラクター原案:絵本奈央
‣音楽:Evan Call
‣アニメーション制作:
‣出演
*1:cf.『いまさら翼といわれても』