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映画制作者の自意識、あるいは時代の不安——『押井守監督が語る映画で学ぶ現代史』感想

押井守監督が語る映画で学ぶ現代史

 『押井守監督が語る映画で学ぶ現代史』を読んだので簡単に感想。

  戦後の日本映画を年代順にいくつかセレクトし、「映画は「時代の不安」のタイムカプセルだ!」をスローガンに押井守が自説を開陳していく構成。このスローガンには二通りの含意があると押井は前書きで述べている。一つは、「映画をみる」という体験が個人史的な記憶と結びついているということ。本書でも、押井自身の個人史と重ねて、『世界大戦争』や『007』などが語られる。もう一つが、映画がその時代の「無意識の欲望」のようなものを反映している、ということ。しかし、押井は映画がもはやそのような役割を失っていっているのではないか、戦後というのは映画がそうした機能を喪失してゆく過程なのではないか、と見立てる。

 そうした映画語りももちろん面白いのだが、とりわけ押井自身の制作にまつわる挿話が出てくると俄然おもしろいわけです。

「僕は「うる星」の何が好きかと言ったら、とにかく徹底的にドライで、全員がエゴイストで、あとはひたすら暴力という、そういうところだよ。」p.232

とか。また、『009 RE:CYBORG』の企画段階の話とか、『スカイ・クロラ』は実は原作から大きく離れた続編の構想があって、森博嗣の理解もおそらく得られるだろうと踏んでいたとか。

 『THE NEXT GENERATION パトレイバー 』の制作過程なんかは結構思い入れがあったようで、わりにページを割いて語られている。『CSI』なんかの海外ドラマのように、まず最初に大きく投資して主要な舞台をセットで組んで(それは『TNG』だと特車二課のハンガーなわけです)、そこを中心に撮ると安く上がるはずという見込みがあったらしい。それで実際、ドラマ版は商業的にまずまず成功したが、映画は興行的にもあんまりうまくなかったと。映画が『パト2』なのはプロデューサーに『パト2』やれといわれたからだとか。

 そうした制作裏話はともかく、現状での押井の制作者としての自意識が垣間見れるのも興味深い。かつては映画を通して思想のようなものを語りたかったが、いまは単に撮りたい、撮ってるうちに何かがでてくるだろう、と。そのあたりは『TNG』をつくっていた時からそうだったのかも、と今になって思う。

 それと、押井は『キャプテン・アメリカ / ウィンターソルジャー』を非常に高く買っていて、これは非常によくわかるという気持ち。そうか、MCUキャプテン・アメリカって冷戦をすっ飛ばして、ベトナム戦争なんかも経験してないんだな、と改めて気付かされる。ベトナム戦争キャプテン・アメリカ、あまりにも食い合わせが悪そうで、原作コミックだとどう処理してるのかしら、とふと思う。資本のアイアンマンと理念のキャプテン・アメリカアメリカ的なるものを背負わせ、ある種の「アメリカの終わり」を描き切ってしまったMCUが、今後大きな絵を描くにあたってどうモチーフを探ってゆくのか、というのは非常に気になるところです。

 

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