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『麒麟がくる』感想

麒麟がくる 前編 (1) (NHK大河ドラマ・ガイド)

 『麒麟がくる』がついに最終回を迎えました。コロナ禍による中断をはさみ、明らかに消化不良と感じられる幕引きではありましたが、全体を通して楽しく視聴していました。以下、簡単に感想。

  明智十兵衛光秀。織田信長を弑した男。彼はなぜ信長に仕え、そして反旗を翻すにいたったのか。

 長谷川博己を主演に据え、明智光秀の活躍を描く。戦国時代を舞台とした作品で幾度も反復されてきたドラマを、明智光秀の視点から眺める、という点は新奇な感じでよかった。これまで受け身の男として表象されがちだった十兵衛光秀を、太平の世を実現すべく次々と有力者をプロデュースするべく活動するアクターとして再提示してみせたその発想は見事だったのではなかろうか。

 そのような動きは、ともすれば打算的な陰謀家のようにみえるものかもしれないが、その振る舞いがあくまで誠実さに貫かれているような雰囲気をまといえたのは、ひとえに長谷川博己という役者の力であり、またその力を信じえた脚本の仕事によるところが大きかっただろうな、と思う。その誠実さに惹かれ、あるいは心打たれ、あるいはつけ込もうとする人間たちが跋扈するドラマに説得性を与えたのは、疑いなく長谷川博己の力だろう。

 本木雅弘斎藤道三(大仰な演技がネガティブに働く場面もあったが)、稚気と狂気を感じさせる演技が見事であった染谷将太織田信長、卑屈さと慇懃無礼さの光る佐々木蔵之介の秀吉、善性の中に人間的な弱さのにじむ滝藤賢一による足利義昭などなど、主要人物のキャスティングは総じて成功していたと感じる。

 『いだてん』に対する異様な低評価には辟易するが、しかし「みんな知ってる」という地の利を熟知し、作劇に活かした『麒麟がくる』を見終えたあとだと、ほんとうに「みんな知ってる」話じゃないから『いだてん』は受けなかったのだなと実感する。これは『清盛』もそうかもしれない。おそらく「みんな知ってる」話ではないだろう『青天を衝け』はいかなる手練手管をみせてくれるか、わたくしは素朴に楽しみです。