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甘い生活、嘘の革命——アニメ『ACCA13区監察課』感想

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 『ACCA13区監察課』をみたので感想。

  我々の世界とは異なる世界。13の自治区により構成される連邦国家、ドーワー王国。そこではACCAとよばれる組織が警察、消防など様々な業務を担っていた。各自治区のACCA支部が適切に業務を遂行しているか監視する監察課の副課長、ジーン・オータスは、王国をゆるがすクーデターの陰謀に巻き込まれていく。

 オノ・ナツメによる原作を『スペース☆ダンディ』、『ワンパンマン』の夏目真悟監督によりアニメ化。制作はマッドハウス。ヴィジュアルはスマート、劇伴はスタイリッシュ。とくにオープニング、エンディングの映像・音楽はどちらもお見事。

 ポリティカルフィクション風味のドラマは抑制的で、それは明らかにこの作品の美点になっている。クーデターという仕掛けでドラマを牽引しつつも、暴力は基本的には前景化せず、血なまぐさい展開は回避される。マクガフィンとして機能している食パンや菓子などの小道具は、作品全体の雰囲気をやわらかなものにしている。その小道具と題材のミスマッチ感が本作の魅力かもしれない。

 この作品の「クーデター≒革命」に対する見方は極めて醒めていて、それを駆動するのは組織の自己保存の本能であり、しかもそれが結局は王家を形骸化させ、それに成り代わらんとする有力貴族の陰謀にすぎなかったことが明らかになる。主人公ふくむ組織の人間たちもクーデターに対して冷静に距離をとっているし、それはとりわけジーン・オータスのキャラクターがそうさせるのかもしれないが、作品全体のトーンは平熱という感触がある。

 革命の夢など素朴に信じられないポスト1968年的なエートスを引き受けていることを買いたいが、一方でそれがどうにも生活保守的な色彩をまとってもいる感じもする。しかし、生活者を守る使命をもった組織が、あくまで組織の使命を果たすために行動し事態を落着させる結末のバランス感覚と、小道具で生活者のディテールに内実を与えることでその組織の使命の確かな価値を描き得たこの作品が、全体としてわたくしは好きです。

 

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