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ニュータイプと運命の女——『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』感想

映画 機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 劇場限定 パンフレット 豪華版

 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』をみました。お見事でした。以下、感想。

  シャアの反乱から12年。地球では連邦政府高官を狙ったテロが相次いでいた。テロリストの首魁と目されるのは、謎に包まれた人物、マフティー・ナビーユ・エリン。人々は知る由もなかった。その正体が、一年戦争以来、ニュータイプとの奇妙な縁で結ばれた軍人、ブライト・ノアの息子、ハサウェイ・ノアであるとは。

 『逆襲のシャア』の後日談として富野由悠季によって書かれた原作を、『Ergo Proxy』・『虐殺器官』の村瀬修功を監督に迎えて映画化。キャラクターデザインは『劇場版 機動戦士Zガンダム』から『機動戦士ガンダムUC』のラインの延長線上にあるように感じられるが、全体的な画面設計は『虐殺器官』を彷彿とさせるソリッドさ。冒頭、テロリストにハイジャックされた宇宙航空機上でのアクションは、作品世界の硬質なリアリティのありようを十全に伝えているように思える。

 そうしたリアリティのもとででモビルスーツという巨大なロボットを動かす、という試みもまた、見事に成功を収めている。マフティーモビルスーツが街を空爆し、市街戦が展開する中をハサウェイとヒロイン、ギギ・アンダルシアが逃げ回るシークエンスはなかでも白眉。巨大な物体が、高速度で動き回っていること、その恐怖。それを伝えることは、これまでのガンダムで十全には達成されてはいなかったのだな、とこの『閃光のハサウェイ』をみて改めて感じた。ある種の怪獣映画的な目線でもあるのだが、その怪獣的な巨大な存在が人の意思で高速で移動し、かつ戦闘している点で、質感も怪獣映画のそれとはずいぶん異なるものに感じられる。戦闘の決着を告げる「閃光」をバックに、男女が身を寄せ合うシーンの途方もない美しさといったら!

 そうしたルックの美しさ、すばらしさとともにこの作品で印象的なのは、ヒロイン、ギギ・アンダルシアのファムファタルぶりで、この女によってハサウェイは破滅するのだろうな、という予感が充満している。富野由悠季はこの種のエキセントリックな女性キャラクターをしばしば登場させていると思うが(『閃光のハサウェイ』にも顔を出すクェス・パラヤもこの類型といっていいだろう)、富野的なエキセントリックさを別の人間が演出するとこういう質感になるのか、というのが新鮮だった。

 また、彼女は明らかにニュータイプ的な素質をもつ人物として設定されているように思うのだが、その「ニュータイプぶり」が大仰に演出されない(効果音は鳴ったりしないし精神世界もぐわーっと広がったりしない)あたりも、この作品のリアリティの水準とマッチしていてよい。ただ「異様に勘の鋭い女」以上のことがわからないあたり、ややニュータイプのオカルト感が作品全体を覆っていた『ガンダムUC』とは一線を画する、ような気がする。そうしたニュータイプ的なるものの立ち上げ方も本作のおもしろみではないかと思う。運命の女としてのニュータイプ

 一方、これはわたくしが見に行った劇場のスクリーン問題でもある気がするのだが(同スクリーンでみた『シン・エヴァ』も他の劇場よりやや薄暗く感じたので)、モビルスーツ戦闘のシーンが全体として薄暗く、高速ぶりもあいまって「なにやってるかわからん」感が強かったのはやや残念。その「なにやってるかわからん」感が市街戦のシークエンスでは効果的に働いているので単に欠点とも言い切れないのだけど...。コクピットに表示される計器類の異様な密度といい、モビルスーツまわりの描写は手が込んでいて素晴らしいので、もっとゆっくりみたいわね...という気持ち。

 というわけでたいへんおもしろかったです。

 

 

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  原作、読むかどうか迷いどころです。