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少女の幼い身勝手さ―—『サマーウォーズ』感想

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 『竜とそばかすの姫』もまもなく公開ですね。ということで細田守監督作品を再見していて、『サマーウォーズ』を久方ぶりに見返しました。以下、感想。

  高校二年の夏休み。あこがれの先輩のバイトを請け負い、長野県は上田へ。先輩の婚約者のふりをさせられ困惑する少年は、ひょんなことから世界を巻き込む電脳世界の大事件の渦中に叩きこまれることになる。

 『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』、『時をかける少女』に続く、細田守による長編劇場アニメ3作目。電脳世界でアバターがかけめぐり、世界の危機と対峙する展開は、かつて手掛けた中篇『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』の再話の趣があり、セルフリメイク的な色彩が濃い。

 『ぼくらのウォーゲーム!』との大きな差分として、長野の旧家の面々が画面をにぎやかすこと、そしてそこに少年を導いていく先輩、篠原夏希の存在だろう。脚本を務めたのは、『時をかける少女』に続き奥寺佐渡子だが、篠原夏希は『時かけ』の主人公、紺野真琴と、その幼い身勝手さによって連続しているという感じがある。

 祖母を喜ばせるために、高校2年の後輩を「アメリカ帰りの東大生」と紹介して通ると思ってしまう幼稚さ。近視眼的な欲望で時間を弄ぶ真琴と、その表出の仕方は異なるが、悪意なく発揮されてしまうある種の身勝手さという点で相似形だろう。真琴はその身勝手さの代償をドラマ中で支払うことになるが、夏希は祖母との死別という契機はあるが、真琴のようには明白な「成長」は主題とならない。

 ただ、この『サマーウォーズ』の不思議なえらさは、そのように幼い身勝手さをまとった夏希が、いやなやつ、不快なやつにはみえないところで、それはひとえに貞本義行のキャラクターデザインの魅力故だろうし、むしろその身勝手さにこそ、奥寺の脚本の個性が現れているのかもしれない。その後の作品ではこうした幼稚な身勝手さは後退しているが、それはなんというかある種の魅力がオミットされるという結果を生んでいるかも、とも。

 ただ、細田守の以降のフィルモグラフィに通底するある種の素朴さ——家族的なつながりの特権視、都市と対比するかたちで描かれるひなびた場所のあたたかみのようなもの——が一挙に出ているのもこの『サマーウォーズ』の特徴だと思う。『サマーウォーズ』を屈託なく「あり」と思える感性の持ち主には、細田守のオリジナル作品は全体として「あり」なのだろうけど、いやその類の素朴さを肯定はできんよなあと改めて思った次第。

 

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