宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

アニメという多面体——アニメ『呪術廻戦』感想

呪術廻戦 Vol.1 Blu-ray (初回生産限定版)

 アニメ『呪術廻戦』をみました。以下、感想。

 奇妙な偶然から、生き延びるために呪物「宿儺の指」を食べてしまった高校生、虎杖悠仁は、呪いの王とよばれる両面宿儺をその身に宿してしまう。死刑を回避するために呪術師の集う呪術高専の生徒となった虎杖は、呪いと戦う術を身に着け人々を守るため奮闘する。

 芥見下々による『週刊少年ジャンプ』連載作のアニメ化。アニメーション制作はMAPPA、監督は『牙狼-GARO- -VANISHING LINE-』の朴性厚。平松禎史によるキャラクターデザインは非常にスマートかつパワーを感じさせ、原作にもポジティブな影響を与えていることが推察される非常によい采配。これは『NARUTO』における西尾鉄也のごとき、アニメと漫画との幸福な相互作用の一例でしょう。

 2020年から翌21年にかけて2クールにかけて放映され、原作でいうところの8巻あたりまでストーリーは進行している。この間、原作はストーリーを急加速させて主要人物たちに過酷な運命を課した「渋谷事変」が進行しているただなかであり、そのひりついた空気感はとりわけ2クール目のオープニング、エンディングのシークエンスに表れているという気がする。その意味での原作との相互作用を強く感じさせる。

 次々と出来事を発生させて登場人物たちのドラマを停滞させない巧みなストーリーテリングは原作の魅力の一つだろうが、アニメ版でもその美点を損なうことのない脚色が行われている。加えて、アクションシーンではキャラクターを大胆に躍動させ、かつ原作における強さのヒエラルキーを崩さないという絶妙なバランス感覚がお見事。優れた漫画が優れたアニメになっているということに素朴な嬉しさを感じる。

 また特に印象的なのはエンディングアニメーションの気持ちよさで、1クール目のALI「LOST IN PARADISE feat. AKLO」はキャラクターが役者のごとく躍動して本編とは異なる姿をみせるファンサービスが嬉しく、2クール目のエンディング「give it back」のスマホ撮影的な演出は、この美しい時間が終わってしまうことを(原作の展開ゆえに)すでに知っている我々に強い感傷をもたらす。

 こうして原作のもつさまざまな魅力を、多面体として立ち上げるという点においてこの『呪術廻戦』のアニメ化は見事な成功を収めていると思うし、この連載版と比べるとやや洗練に欠く前日譚のアニメ化も、このスタッフであれば間違いなくすぐれたものを提示してくれるだろうと思うので、いまからたいへん楽しみです。

 

関連

amberfeb.hatenablog.com