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老人と贈与の問題——『クライ・マッチョ』感想

ポスター/スチール写真 パターン4 クライ・マッチョ 光沢プリント

 『クライ・マッチョ』をみたので、感想。

 アメリカ合衆国、テキサス。年老いた元カウボーイの男のもとに、かつての友人が現れ、息子をメキシコから連れ出してほしいと依頼される。単身メキシコにわたり、その少年と会うことに成功した老人。二人と一羽のささやかな旅。

 クリント・イーストウッドの監督・主演最新作は、老人と少年の交感を主題にしたロードムービー。『グラントリノ』の記憶が否応なしに喚起されるが、そこから13年の時を経て御年90歳を超えて、その身体はいかにも衰弱した後期高齢者であることを隠しがたくなっている。その老いを相当自覚的に画面に写したのは2018年公開の『運び屋』と同様だが、この『クライ・マッチョ』ではストーリーとしてもそのある種の「弱さ」をさらしている。

 それは『グラントリノ』でみせたあまりに美しい人生の引き際と対照的で、そこにクリント・イーストウッドという作家の転向を見出せるだろう。きれいに完結した一個の生という男性性の極致ともいうべき人生の決算ではなく、他者の善意によってゆるゆると生かされていく、そのことを肯定することが、老いた作家の義務と責務だったのかもしれない。人生の結晶ともいうべきアイテムを贈与することで他者に何かを継承するのではなく、むしろともに旅した証を少年から受け取ることぐらいしかできない、そのことを認めることはまったく正しいという気がする。

 一方で、そうしたイーストウッドという作家の文脈を離れてみると、わりあいだらっとした映画で、後期高齢者が機敏な動きができるわけがないので修羅場は機転と闘鶏のパワーでさっと乗り切ってしまうし、緊張感は薄い。寝不足のせいが大きいんですけど、しばらくぶりに劇場でうとうとしてしまいました。わたくしにとって老いの問題はそこまで自分のこととして引き受けうる主題じゃないし。こんなだらっとした変な映画を撮って劇場でかけられる監督はほかにいるまいと思うと、それはそれで貴重な時間とは思うんだけど......。

 もうあと何本あるかわからないし、もしかしたらこれで最後になる可能性も十二分にある(わたくしが流行病でしぬかもしれんわけだし)わけだけど、これで終わりっていうのはあまりにもおさまりがよすぎるんで、また劇場で、新作をみたいですわね。