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隠された釘——『ウエスト・サイド・ストーリー』感想

ウエスト・サイド・ストーリー (オリジナル・サウンドトラック)(特典:なし)

 スピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』をみました。不朽の古典の感のある1961年版を踏まえてなお、それに真っ向勝負を挑む勝負師精神がお見事!以下、感想。

 アメリカ合衆国、ニューヨーク。ほんのすこし昔。ウエストサイドでは、ポーランド人にルーツをもつ青年たちの不良集団ジェッツと、プエルトリコ移民たちのそれであるシャークスが小競り合いを繰り返していた。ある事件をきっかけにジェッツから距離を置いていたポーランド系の青年トニーは、友人の誘いによって足を運ぶことになった両グループが接近するダンスパーティーで、可憐な少女と出会う。二人は互いにひかれあうが、少女の兄はシャークスの首魁だった...。

 『ロミオとジュリエット』を翻案したブロードウェイミュージカルの映画化。主演に『ベイビードライバー』のアンセル・エルゴート、ヒロインはオーディションで抜擢されたというレイチェル・ゼグラー。レナード・バーンスタインによる楽曲の指揮をとるのは、グスターボ・ドゥダメル

 すべてがスタンダードナンバーといってもいいだろう楽曲がこの映画の魅力であることは疑いようがなく、これはわたくしが1961年版をきちんとした環境で視聴したことがないことによるのかもしれないが、このスピルバーグ版では一層パワフルなものになっていると感じた。とりわけ体育館のダンスパーティーの「マンボ」の気持ちよさといったら!

 1961年版は舞台上のミュージカルをスクリーンの上に落とし込むような演出だったとぼんやり記憶しているのだが、この2021年版は疑いなく映画そのものになっている、そのように演出されていると感じる。1961年版では、おそらくミュージカルがそのようなものだったからだと思うのだが、ダンスと歌唱はときにアクションとバイオレンスの代替物であった。一方でこのスティーヴン・スピルバーグ版は、冒頭に耳に刺さった釘に象徴されるように、暴力が暴力として生々しく存在する世界で、それでも若者たちは颯爽と踊り、しかし時に暴力がぐわっと露出する。

 しかし暴力の厭な感じを覆い隠し、映画全体のトーンが暗くなりきらないのが音楽の魔術で、それはある意味めちゃくちゃおそろしいことかもしれない。そのおそろしさと戯れることこそ、まさに映画をみるという行為の特権的な快さなのかも、とも。