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不自由さ、気恥ずかしさ——アニメ『SPY×FAMILY』感想

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 このところ『SPY×FAMILY』をみていました。以下、感想。

 世界が「西」と「東」とで対立し、陰謀が張り巡らされるなか、西から東へと潜入するスパイ「黄昏」ことロイド・フォージャーは、東側の要人、ドノバン・デズモンドに接触するよう命を受ける。警戒心の強いデズモンドに接近するため、その息子の通う名門校に子どもを通わせることで接点をつくる計画が進行するが、ロイドは独り身であった。スパイであることを隠して孤児を引き取り、偽装結婚を試みて任務遂行を図ろうとするロイドだったが、引き取った孤児は人の心を読む超能力者、結婚相手に選んだ公務員の女の裏の顔は凄腕の殺し屋だった。それぞれが秘密を抱えた家族が巻き起こす喜劇。

 遠藤達哉による漫画を、『機動戦士ガンダムUC』などで知られる古橋一浩を監督に据えてアニメ化。アニメーション制作は『進撃の巨人』のWIT STUDIOと、『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』のCloverWorks。オープニングテーマはOfficial髭男dism、エンディングテーマは星野源といかにも売れ線を狙った布陣で、作画・演出も緩急がついていて気持ちよい。マスにリーチする作品たれという使命は、きちんと果たされていると思う。

 東西冷戦下のヨーロッパを想起させる架空世界は、寄宿学校はイギリス風なのにシュタージを想起させる秘密警察が跋扈する、さながらコラージュのような趣。これを陳腐と断ずることは容易いが、しかしこの作品の魅力は緻密な世界設計にあるのではなく、キャラクターの織り成すコメディにこそあるのだろうから、そこで興ざめするようではこの作品のよいお客さんではなかった、ということだろう。

 一方でこのアニメを決定的に退屈にしているのは、能力において「黄昏」に匹敵する存在が(このアニメ1クール目の段階では)作品世界のなかに登場しないこと。それはこの金髪の伊達男が意志すれば作品世界の物事をおおむね思う通りにできるということで、それは冷たい戦争のさなかに無数の善意や良心が踏みにじられているであろうこの世界の背景と照らしたとき、あまりに無神経であるようにも感じられる。このレベルの万能さをもっているのなら、そもそもこんなまわりくどい疑似家族作戦などとらず、もっとエレガントな方法で目的を遂行できるのでは?みたいな野暮なことを思ったりもする。

 東西冷戦下を舞台にした傑作映画『裏切りのサーカス』ばりの緊張感をアニメに求めているわけではないのだが、こう、「うまくいきすぎている」ことの居心地の悪さがとりわけ前半部に強く感じられて、それがこのアニメをみている最中になんというかわたくしが恥ずかしくなってしまった原因なのではないか、という気がするのだ。

 物事が思い通りにいってよかったねという安易な快を、わたくしは30分のアニメのなかに必ずしも求めているわけではないのだ。それはなんだか高級じゃない快だという気がするから。

 だからこそ、この作品世界のなかで唯一といっていい、伊達男の思い通りにならない少女、アーニャが極めて魅力的に描かれていることは、この作品全体を救っているという気がするのだ。他者の心を読み取れるが、勉学は不得手で運動能力も決して高くない彼女は、黄昏と対照的にその意志を作品世界のなかで十全に実現できない存在だといっていい。黄昏が彼女を思うように動かそうとしても、決してうまくはいかない。序盤の入学試験までの異様な「恥ずかしさ」は、黄昏のアーニャに対する働きかけが見かけ上うまくいっているようにみえる(そうしないと疑似家族あるいは作品がおしまいになるので仕方ないといえば仕方ないが)ことが原因という気がする。この作品は黄昏の意志をモノローグで挿入するため、その視点で作品世界が支配されている時間が長いと感じるが、少女の目をもっと貫徹していたら、不自由なこの世界とキャラクターはもっと魅力的になったのかもしれない、とすら思う。

 言うまでもなく、『残響のテロル』や『リズと青い鳥』などで鮮烈な印象を残した種﨑敦美の演技は、それ抜きでこの作品はあり得なかったと言い切れる素晴らしさ。舌足らずな少女を、記号的に、しかし嫌な感じのわざとらしさ抜きに演じた種﨑が支えたこの作品世界が、このあといかなる飛躍をみせるか、ほんのちょっと楽しみにしてもいいのかもしれません。

 

 

 金髪伊達男のスパイ、というと『DARKER THAN BLACK』のノーベンバー11を思い出しますね!この作品にもそのくらいのドライさがあったら...というしょーもないことを思う。