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犬と善性——映画『ヘルドッグス』感想

ヘルドッグス 地獄の犬たち【電子書籍限定!書き下ろし短編収録】 ヘルドッグスシリーズ (角川文庫)

 『ヘルドッグス』をみました。近年の原田眞人監督作品のなかでは断トツにいいのでは。以下、感想。

 警官を辞め、自身が見逃してしまった強盗殺人犯たちの足取りを執念深く追跡し、ついに殺害した男。その経歴と腕っぷしを買われ、暴力団への潜入捜査を命じられる。そこで、妙に馬の合う若い男と組み、精鋭部隊「ヘルドッグス」の一員として、男は裏社会で存在感を放つようになっていった。次第に巨大組織の心臓部に近づいてゆく、孤独な男の見出すものとは。

 『果てしなき渇き』の深町秋生による小説を、『クライマーズ・ハイ』『燃えよ剣』の原田眞人を監督に据え映画化。主演は『関ヶ原』、『燃えよ剣』で原田と組んだ岡田准一。『SP』や『ザ・ファブル』などでその身体能力をいかんなく発揮した岡田は、この映画でも抜群の身体のキレをみせる。岡田の魅力で映画を引っ張ってしまう強烈さは『燃えよ剣』と相似形。

 その岡田とタッグを組む、弟分の若い狂犬を演じるのは坂口健太郎。近年では朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』で偏屈気味だが善良な若い医者を演じたり、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では疑心暗鬼の陰謀渦巻く鎌倉にあって闇に飲まれつつある父を、素朴な善性で押しとどめようとする北条泰時を演じたりと、どちらかといえば明らかに「いいやつ」ポジションの俳優として印象に残っていたのでこの配役は意外の感があったのだが、蓋を開けてみれば見事にはまっていて、素晴らしい仕事ぶり。「いいやつ」っぽさが所作や表情ににじんでしまうことが、むしろこの無邪気な暴力マシーンである室岡にある種の陰影を与えていた、とも思う。岡田を慕う姿はどこか犬っぽい。

 この「いいやつ」感がにじんでしまうアウトローとして、たとえば『新宿スワン』や『ロング・グッドバイ』の綾野剛とか思い浮かぶんだけど、坂口健太郎もそういう線ですげえいいと思いました。

 近年の原田眞人の仕事は、とりわけ時代劇は映画として必ずしも優れているとは言い難い。『日本のいちばん長い日』は(比べるのも酷だが)岡本喜八版には到底及ばないし、『関ヶ原』は岡田准一萌えがなければ無惨そのもの、『燃えよ剣』は見どころはあれどサービス精神が足りてない、という感じを受けていたのだが、この『ヘルドッグス』はブレーキを踏むことなど一切ない強烈なスピード感でドラマを駆動させていて、娯楽映画として大変楽しませてもらいました。北村一輝にしろMIYAVIにしろ、立っているだけでキャラが立ってしまうので説明不要なのが素晴らしい。

 室岡の出自をめぐる問題がここ数か月の現実と共振していることの奇妙さは、『検察側の罪人』で現実のさまざまな文脈を映画のなかに意図的に流し込んだ感触とは全然違っていて、それも、こういっては不謹慎だが、やはりおもしろい。ひさしぶりに映画館にいって、こういう映画をみて帰ってこれて、うれしかった。うれしかったです。

 

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