宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

拡張現実とオルタナティブな東京——『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』感想

劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール- [Blu-ray]

 プライムビデオで配信が終わるというので、『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』をみました。以下、感想。

 大規模オンラインゲームの仮想空間にプレイヤーが閉じ込められ、ゲーム内での死が現実での死に直結するデスゲームによって大量の犠牲者が出た「ソードアートオンライン」事件から数年。巷では、現実に仮想空間を重ね書きする拡張現実デバイスが大流行し、それをもちいたゲーム「オーディナル・スケール」も大きな流行をみせていた。そんななか、同ゲーム内で「ソードアートオンライン」のボスキャラが姿をみせはじめ、かつて死のゲームから生還したものたちに陰謀の魔の手が迫っていた。

 川原礫によるライトノベルを原作にしたアニメ『ソードアート・オンライン』の劇場版は、ARをガジェットとして取り入れたオリジナルストーリー。原作と接したとき、これは懐かしきPS2のゲーム『.hack』の二番煎じじゃん、という目でみてしまったわたくしだが、このARゲームによって『.hack』の重力から離脱した感じがしてとっても好印象。

 TVシリーズの1期が2012年(10年前ってマジ?時の流れのはやさ、怖)で、この『オーディナル・スケール』の公開が2017年。ARをもちいたゲームとして大流行した『Pokemon Go』の配信開始が2016年だから、うまく同時代の空気を取り込んでいる気がして、その点も印象がいいですね。

 ゲーム内の書き割りの世界を舞台にしたTVシリーズに対して、この劇場版では秋葉原ODXや代々木公園など、東京都内の様々なランドスケープが出てきて、そうした見知った風景がARで上書きされて異世界が出現する趣向になっていて、それも新味があっていい。『ソードアート・オンライン』シリーズで監督を務めている伊藤智彦が後にてがける『HELLO WORLD』(2019年公開)では京都の街が『インセプション』的想像力でめちゃくちゃになるが、それと相通じる発想の根を感じたりもする。

 最終決戦の舞台になるのは、わたくしたちの無残なオリンピックの記憶と紐づく新国立競技場。制作当時は、ザハ・ハディド案がちゃぶ台返しで白紙になり、隈研吾による現デザインが固まったかどうか、という時点で制作が進行していたのだろうと推察するが、この映画におけるオリジナルデザインはややザハ案を想起させる流線型の建築物であり、その点でもある時代の刻印が残っている感じで味わいがある。『天気の子』のように隈研吾のものがばしっと出てくるのに対して、この映画の想像力は(意図せざる結果として)それはあくまでありえた一つの可能性にすぎなくて、ザハの晩期の仕事が東京に残っていたかもしれないんだぜ?と冷や水をかけるようにも思えるという意味で、この映画のロケーションは少なくない意味がある、と思う。

 『リコリス・リコイル』でいまをときめく足立慎吾によるキャラクターデザインはキュートで、アクションシーンも外連味たっぷりによく動く。故・神田沙也加の歌唱は(必ずしもアクションシーンと相乗効果を発揮してはいないが)印象に残るし、命ではなく記憶を担保に緊張感をもたせる工夫は気が利いている。オールタイムベスト級の作品では全然ないんだけど、総じてよくできているし、時代の刻印という点ではTVシリーズよりはるかに興味深い作品だと思います。

 

関連

 

amberfeb.hatenablog.com

amberfeb.hatenablog.com