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放課後の秘密基地——『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』感想

Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐ 4 [Blu-ray]

 『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』をみました。これはほんとうによいアニメですね。以下、感想。

 遠くない未来、日本列島、新潟県、「ものづくり特区」に指定された三条市では、宅配ドローンが住宅街を飛び交うなどさまざまな先進技術が身近に根付いており、それを学ぶ湯々女子高等専門学校が開学していた。ぼんやりした少女、結愛せるふは、幼馴染のぷりんこと須理出未来とその高専で学ぶはず...だったのだが、不合格になってしまい、高専の間近にある普通の高校、潟々女子高等学校に入学することに。登校中、偶然出会って助けてくれた先輩、矢差暮礼がDIY部の部長だったことから、せるふはDIY部に入部することになる。

 近未来を舞台に、DIYにとりくむ女子高生たちの日常を描いたオリジナル作品。アニメーション制作は『かげきしょうじょ!!』などのPINE JAM、監督は米田和弘。キャラクターデザインは『ヤマノススメ』の松尾祐輔で、いかにも動きが映えるシンプルな線で描かれたキャラクターたちは素朴なかわいらしさがあって、このアニメの大きな魅力になっている。こうしたキャラクターの描線は『ヤマノススメ』の流れを直接くむものと見立ててよいのだろうと思うのだけれど、このオリジナル作品に普遍性と強度を与えているのは疑いなくこの線だろう。

 この作品が放送された2022年秋クールは、同じくアニメーターの個性が光った『ぼっち・ざ・ろっく!』も放映されていて、同作のなかに『けいおん!』の遺伝子が流れ込んでいるのを感じたりもしたが、主人公の少女が自身を包囲する社会=世界との関係で煩悶する『ぼっち・ざ・ろっく!』よりも、少女が自身を取り巻く世界と極めて幸福で満ち足りた関係性を築いているこの『DIY』のほうが、そのモチーフの差を度外視するならば、よりはっきりと『けいおん!』の衣鉢を継いでいるといってもいいかもしれない。

 一方で、楽器を演奏することよりもむしろ放課後に流れるくだらなくもいとおしい時間こそが焦点化された『けいおん!』に比して、この『DIY』は極めて真摯にDIYという営為と向き合っているという気がする。『けいおん!』は音楽アニメ、バンドのアニメとは言い難いかもしれないが、『DIY』は疑いなくDIYのアニメだろう。木材の加工の手順を律儀に映すし、中盤以降に目的となるツリーハウスの建築の工程もかなり時間をかけて段取りを積み上げていく。

 また、主人公のせるふが慣れない道具を使うときのあぶなっかしさは、彼女のパーソナリティによるものでもあるが、初心者がゆえの拙さを誠実に描いているともいえる。そしてこのアニメの美点とユニークさは、せるふが「下手」であることを否定せず、克服すべきものとして提示していないところ。彼女は数か月の経験で道具の使用に劇的に習熟したりはしないし、生来の不器用さが克服されたりは無論しない*1。そのことで誰かに責められたりもしない。むしろ仲間たちは時に手助けをしてくれるし、さらに下手くそな加工物がしっかり共同制作の成果物に組み込まれもする。

 「下手」で「不得意」でもその営為にかかわることを肯定すること。下手で不器用でも「自分でやる」ことそのものが楽しく嬉しいのだと教えるこのアニメは、さしあたってへたくそなりになにかを楽しむほかないわたくしのごとき素人を、あたたかく勇気づけるのである。秘密基地とはそのように、その存在を知るものに微かな勇気を与えるものの謂いなのである。

 

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amberfeb.hatenablog.com

 

ヤマノススメ』未見なのは犯罪だと糾弾されたので、ぼちぼちみます...

 

 

*1:このあたりの読みはTwitter上であおみどり@bluingreenさんがつぶやいておられた。