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魔改造の素──伊坂幸太郎『マリアビートル』感想

マリアビートル (角川文庫)

 伊坂幸太郎『マリアビートル』を読んだので感想。

 とことんついていない男、七尾。殺し屋である彼は、東北新幹線に乗り込み、東京・上野間でスーツケースを奪う、というごく簡単な仕事を請け負うのだが、その新幹線には人知れず乗り込んだ殺し屋たちが跋扈しているのだった。

 2010年刊行。デヴィッド・リーチ監督、ブラッド・ピット主演の映画『ブレット・トレイン』の原作。2004年に刊行された『グラスホッパー』と世界観を共有する続編的な立ち位置だが、お話は独立している。

 わたくしの伊坂幸太郎経験はほぼ中学・高校生時代につきており、そのころ『グラスホッパー』も読んだが内容はほとんど忘却の彼方である。その後、いまから10年位前に阿部和重との合作である『キャプテン・サンダーボルト』を読んだのが、伊坂の小説に接した最後。本書を手に取ったのはあんまり脳みそが疲れなさそうな本を読みたいという怠惰な動機で、映画のおかげで大筋を知っているからいいだろうと選んだ。

 『ブレット・トレイン』は別段優れた映画ではないが、その優れていなさがある種の気安さになっていて、劇場でみて以来、映像ソフトも買って何度か流し見するくらい気に入っていたりする。そういう風に流し見できる気安い映画だと思うのだ。映画では日本列島を舞台にしながらもキャストが多国籍だったり様々な脚色がなされているだろうことは推察できたが、新幹線が脱線したりとかのぶっ飛んでいる部分は映画オリジナルの展開と知り、まあそうだよねと納得したりした。

 伊坂幸太郎の小説らしくリーダビリティが高く、さらっと読ませる。蜜柑と檸檬の凸凹殺し屋コンビ、七尾と真莉亜、木村と王子と、主要人物が基本的に二人一組で結びついていて、軽妙な会話を中心に展開を進行させていく手際はこなれた感じである。このコンビ編成も殺し屋コンビ、脅迫する側される側、携帯電話で繋がる相棒と三組三様で、このあたり変化をつけて、場面転換によって単調さを回避する仕組みになっている。

 読みながら映画との差分がどうしても気になってしまうところがあったのだが、結部のあたりは(映画がトンデモみが強いのでそうなのだが)結構ちがうのでおもしろく読んだ。個人的にはすべてが悪役、ホワイトデスが仕組んだことだったんだよ!というのはいかにも伊坂っぽい展開と思ったのだが、これが映画独自の展開と知って結構驚いた。それと檸檬がプリンスを漫☆画太郎ばりに殺害する展開もそうだが、このあたりは原作の仇を映画で取ったような味わいがあり、よかった。

 日本語圏の小説がこのくらい雑に魔改造されて映画化されるの結構いいなと思うんだけど、なかなか変な企画ではあるわよね。

 

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 個人的には『バッカーノ!1931』がポストタランティーノ風娯楽小説の傑作と思っていて、『マリアビートル』はそれには及ばんかったわね!贔屓の引き倒しかもしれませんが。