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永遠と一瞬、悲恋とセンチメント────『バンパイアハンターD』感想

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 『バンパイアハンターD』をみたので感想。

 はるか未来。荒廃した大地では、貴族とよばれる不老の吸血鬼たちと、それを狩るハンターたちの戦いが続いていた。吸血鬼と人間の混血、ダンピールであるハンター”D”は、吸血鬼マイエル=リンクにさらわれた娘を取り戻すよう、依頼を受ける。同じく依頼を受けたハンター集団・マーカス兄妹とともに、Dは荒野を駆ける。しかし、マイエル=リンクとさらわれた娘は奇妙な絆を取り結んでいるようだった…。

 菊地秀行による『吸血鬼ハンターD』を原作とするアニメ映画。北米で2000年に公開され、日本公開は翌2001年。監督・脚本・絵コンテは『獣兵衛忍風帖』の川尻善昭、アニメーション制作はマッドハウス

 天野喜孝による原作の挿絵をもとにしたキャラクターデザインは、天野の造形による耽美的な雰囲気をよく再現していて、男鹿和雄らによる稠密な背景美術もあいまって、ゴシックホラー的な雰囲気を醸し出している。冒頭、吸血鬼の襲来によって十字架がひしゃげ、噴水は凍り付き、吸血鬼そのものを映さずにその異様な力を印象付ける演出は鮮烈。追跡劇のなかで描かれる、『マッドマックス』のごとき荒廃した未来世界のビジュアル、とりわけ最終決戦の舞台となる、恐るべき伝説をもつ吸血鬼の城、チェイテ城の、ゴシック的な衣裳の未来都市ともいうべき大伽藍は圧巻。失敗すればチープなごった煮になってしまいそうなところを、統一された異形のビジュアルとして完成させているところに凄みを感じた。

 川尻善昭監督作品だけあって、アクション描写は25年の時を経てもまったく陳腐化していない。荒野を疾駆する馬や装甲車の迫力はもとより、超常の力をもつ吸血鬼とハンターたちの異能バトルの外連味は見事のひとこと。ほとんど『マッドマックス』的世紀末から抜け出てきたようなマーカス兄妹や、ハンターたちに立ちはだかる異形の刺客バルバロイのおどろおどろしさは山田風太郎甲賀忍法帖』の正嫡という感じがある。一方で、長身痩躯で長大な刀剣を使うDの、静と動とが見事なコントラストを示すアクションは、それらと一線を画す美しさがあり、それがこの作品の大きな魅力となっている。

 逃走する吸血鬼をハンターが追う、という骨格は極めてシンプルながら、上記のような強力なビジュアルで唯一無二の作品となっているのだが、お話のほうは一ひねりあって、吸血鬼=悪というような勧善懲悪の構図ではなく、吸血鬼は永遠の命をもつが故の悲哀をもち、そして半分吸血鬼である主人公のDも、その悲しみを分かち持つ存在になっている。

 不死の身でありながら人間の女を愛してしまい、そしてその女の血を啜りたいという衝動に駆られ苦しむマイエル=リンクは、その愛を永遠のものとすべく、荒廃した地球の外、「夜の都」へと脱出を試みる。一方でDは、つかの間交換したハンターのレイラと、「どちらかが死んだら、もう一方が墓に花を手向ける」という約束を交わす。永遠を求める吸血鬼と、あくまで荒廃した現実にとどまりながら、そこでの限りある生の輝きこそを祝福する男、という対比が鮮明で、それがこの映画に陰影を与えている。

 とにかく、素晴らしかったです。