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地下室と海────『進撃の巨人 Season3』感想

TVアニメ「進撃の巨人」 Season3 第7巻 (初回限定版) [Blu-ray]

 『進撃の巨人 Season3』をみたので感想。

 かつてともに過ごした同期にして、人類抹殺をもくろむ巨人であったライナー、ベルトルトをなんとか退けたエレンたち。しかし、巨人の力をもつエレンは壁のなかを支配する王政の上層部に危険視されつつあり、その意を受けた中央憲兵の精鋭が調査兵団に迫る。そのなかには、人類最強の男、リヴァイの育ての親、ケニーの姿もあった。

 諌山創による漫画のアニメ化。シーズン3は2018年および翌19年にかけて放映。監督はシーズン2に引き続き肥塚正史。このシーズン3では、調査兵団と中央との抗争、壁の中の王家の秘密が明かされ、そしてエレンたちの幼少期に奪われたウォール・マリア奪還作戦ののち、エレンの父、グリシャが地下室に遺した世界の真実が明かされる。物語が急展開するセクションであり、原作漫画を読んでいたときに感じていた夢中で引き込まれる感覚を改めて追体験できる、優れたアニメ化であった。

 アニメを視聴していて感じたのは原作と比べた時のテンポのよさで、わたくしはこのあたりは単行本刊行を心待ちにしながら原作に接していたのだが、兵団のクーデターやケニー率いる中央憲兵との戦いなど、原作では体感時間が長く感じたあたりをすーっと過ぎてしまうので驚いた。これは毎週放映されるテレビシリーズと、月間連載の漫画の時間間隔の違いというのが大きいだろうが、展開が圧縮されているように感じてより面白く感じた。

 シリーズの魅力であるアクションのすばらしさは健在で、序盤では中央憲兵の襲撃を受けたリヴァイが反抗を試みる場面、後半では鎧の巨人に対して新兵器「雷槍」を打ち込む場面がとりわけ印象的。全体をとおして立体機動装置のスピード感は爽快に演出され、新型の対人立体機動装置を使う中央憲兵と、それに対抗する調査兵団たちの、立体機動vs立体機動のアクションは、シーズン3前半の大きな見せ場になっていた。

 お話としては、世界の秘密が明かされ、果てることのない海や見たこともない景色の広がる、自由の象徴としての外部という幻想が崩れ去り、壁の外には自分たちを憎み、抹殺しようとしている敵がいることを突き付けられる結部は、やはり圧巻。意思疎通も不可能で死と暴力の象徴である巨人たちが、自分たち人類とはちがう他者であり敵であるという構図が崩れ去り、あの憎み滅ぼすべき存在だった巨人たちと、壁の中の人類が、壁の外の人類にとっては同根の存在とみなされている…という構図の転換は、原作に接したときも大いに驚いたものだが、このシーズン3の結末のエレンの絶望は、まさに読者のそれとリンクするものだろう。

 このシーズン3をもって、ある意味で『進撃の巨人』という作品の前半部が終わり、恐るべき後半部に突入するといってもいいと思うが、前半部の裏主人公ともいうべきエルヴィン・スミスがここで命を落とすことは、ある意味必然だったのだろう。新兵たちを道連れに特攻する姿は、演じる小野大輔による渾身の名演によって、ウォール・マリア奪還作戦のハイライトのひとつになっている。

 人類に資する使命を果たす調査兵団を率いつつ、その実、極めて個人的な動機に突き動かされていたことが明らかになるこの男は、世界の秘密の隠された地下室の謎を誰よりも欲しているという点で、読者の欲望を代理する存在でもあった。しかしこの男にとって終着点であった地下室は、実際には新たな地獄の扉を開く始まりにすぎず、だから見果てぬ海を目指した少年たちに、人類の命運は託されてゆく。

 『進撃の巨人』という作品の凄みは、躊躇なく見知らぬ地獄を描いてゆこうとする、その恐るべき野心にあったのだなと改めて感じる。その意味で、その地獄の果てまでを描き切った原作が、忠実に完結までアニメ化されたことは、やはり喜ばしいことだろう。これからみる第4期『The Final Season』も楽しみです。

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