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真夏の儚い悪夢───『サマータイムレンダ』感想

サマータイムレンダ

 『サマータイムレンダ』をみたので感想。

 幼馴染の少女、小舟潮が事故で亡くなったとのしらせを聞いた網代慎平は、葬儀に出席するため生まれ故郷の和歌山県和歌山市の離島、日都ヶ島(ひとがしま)へと帰ってくる。潮の死の背後に見え隠れする、島に伝わる「影の病」。それを追う慎平は突如何者かに襲撃され命を落とした…かに思えた。しかし、慎平の意識は島に到着する直前に巻き戻り、再び同じ時間を繰り返すことになる。不意に覚醒したこのループの力で、島に訪れる災厄を防ぐことができるのか。

 田中靖規による漫画作品のアニメ化。田中は荒木飛呂彦のアシスタント出身で、異能バトル的な道具立てにその影響の片鱗がみられるか。放映は2022年。アニメーション制作は『ポケットモンスター』シリーズのOLM、監督は『海獣の子供』、『謎の彼女X』の渡辺歩。

 主人公の死をきっかけとして時間のループが生じ、同じ時間の繰り返しのなかで問題の解決を目指す構成はケン・グリムウッド『リプレイ』や桜坂洋All You Need Is Kill 』、ニトロプラスの『スマガ』、近年の作品では『Re:ゼロから始める異世界生活』などが想起されるが、日本列島の離島を舞台にし、民俗学的な意匠を散りばめ、登場人物の和歌山弁もあいまって土着的な雰囲気を漂わせているの『サマータイムレンダ』の特色だろうか。

 序盤の段階で、近日中に発生する凄惨な悲劇を提示し、その回避が目標として明確になる。SFとしては、登場人物の超常的な力で記憶の共有が可能だったり、かなり融通無碍なところがあるが、中盤以降は時間の繰り返しによるサスペンスというよりは、超人的な身体能力をもつ者たちの異能バトル的な雰囲気にシフトしていくことで作劇に勢いをつけて最後まで見事に走り切っている。主人公たちだけでなく敵方もループしていることを自覚してからは、展開を先読みしているという利点を失い、また凄惨な展開がしばしば生じることもあって緊迫感が増していた。

 そうしたSFサスペンスとしてのおもしろさ以上にこの作品の魅力になっているのは、思春期のキャラクターたちが醸すえもいわれぬ色気。ヒロインの潮は基本的にスクール水着を着用しているが、それで品のないエロティックさが生じているということはない。むしろ、夏の暑さにかすかにあせばみ、ぼんやりと上気したような、ノスタルジーを感じさせるキャラクターの質感が出色だろう。キャラクターデザインは『メジャー2nd』などの松元美季だが、その作品への貢献は極めて大きいと思う。

 ヒロインの潮と並んで魅力的だったのはその妹、小舟澪で、作中で失恋が確定していることがはっきり理解される、いわゆる「負けヒロイン」だが、白砂沙帆の自信なさげな儚さを感じさせる演技もあいまって、強く印象に残る。

 全体の結末は、ループを経ての冒険とそこでの犠牲が夢のような記憶として慎平と潮のもとに残り、それ以外の登場人物にとってはなかったことになる、掛け値なしのハッピーエンド。個人的にはもっとビターなエンディングのほうがよりエモーションを喚起したような気がしないでもないが、魅力的なキャラクターたちがみな救済されたのならいいか、と思えるくらい、キャラクターの魅力で作品全体が牽引されている、そういうアニメだったと思います。

 

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 原作の連載開始は2017年。2010年代は、上記で言及していない作品では『魔法少女まどか☆マギカ』、『STEINS;GATE』(原作のゲームは00年代だが)、『僕だけがいない街』などなどループものが豊作でしたが、この『サマータイムレンダ』も明確にその線上にありますよね。

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