『ダンジョン飯』をみたので感想。いや、すばらしいアニメでした。
狂乱の魔術師が支配するというダンジョンに潜り、生活の糧を得ている戦士ライオス率いる一団。迷宮を探索中、赤いドラゴンとの死闘の末、パーティーは命からがら迷宮を脱出するも、ライオスの妹、ファリンは脱出し損ね、ドラゴンの胃袋におさまってしまう。ライオスらはファリン救出のためダンジョンに再度突入を計画するのだが、荷物を紛失してしまい、食料など十分な準備もできそうもない。そこでライオスは考えた。ダンジョンに住む魔物を食料として活用しながら進めば、食費を浮かすことができるのではないか。この不穏なプランに反対する仲間たちだったが、偶然にも長年魔物食を研究してきたドワーフ、センシと出会い、前人未到の珍道中が始まる。
九井諒子による原作漫画は2014年連載開始で、2024年に堂々完結。『このマンガがすごい!』などで高い評価を得たこの作品を、『キルラキル』『リトルウィッチアカデミア』のトリガーの制作によりアニメ化。監督は『SSSS.DYNAZENON』で助監督をつとめた宮島善博。トリガーにとっては初の漫画原作作品で、これまでは今石洋之や錦織敦史、吉成曜など、ガイナックス関係者を中心とするアニメーターが監督を務めた作品が印象的だったトリガーにあって、トリガー生え抜きのテレビシリーズ監督はもしかして初めてだろうか。全体の印象としては、定評のある原作のコアを尊重した手堅いアニメ化という感じで、その意味でも制作スタジオとしてのトリガーの成熟ぶりを感じさせる一作である。
『ウィザードリィ』、あるいはそのモチーフであるテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』的なファンタジー世界を舞台にしたこの『ダンジョン飯』は、まずそうしたお約束を踏まえて冒頭の説明を最小限に抑え、「ダンジョンでモンスターを調理し飯を食う」という作品の核心部分への最短経路で到達する語りのエコノミーがまずすばらしかった。
世界観の説明や、ライオスたちのパーソナリティや過去、ダンジョンに潜るモチベーションなどの開示は二の次にして、まず妹の救出という大目標を設定してしまい、そのための現状とりうる最善の手段としての「ダンジョン飯」が選び取られるスピード感。ゲーム的なファンタジーの典型といえる舞台設定はこちらも共通了解としている前提で、この作品の中核となる部分まで一気にこちらを連れていく語りは、無論原作の九井の上手さがあってのことではあるが、アニメでもうまく提示されていたように思う。
冒頭のイントロダクション含め、とにかくファンタジーRPGという類型を活かした語りがうまく、この作品自体が、ありあわせの素材を利用して口にしたことのない味のものを提示する、ある種のすぐれた料理のような仕事になっていると感じる。スライムはどんな味がするのか、動く鎧はそもそもなんで動いているのか…などなど、魔獣の生態やメカニックを現実の生物のアナロジーで説明しながら、しかしそれがくどくなりすぎず、しかし作品世界の厚みとなっていく。
メシのディテールは無論のこと、それを食べてダンジョンを進んでいくキャラクターたちはどんどん魅力的になっていく。単にアイデア勝負の変化球であるようなゲテモノ食いに堕さず、王道ファンタジーの風格をたたえ、しかし独自の味が追及されていく、ゲテモノ食いと優れた料理のあいだの絶妙な綱渡りをしていくバランス感覚は稀有。
こうした優れた原作を調理したアニメ版の仕事ぶりも丁寧で、好感をもってみた。全体としては原作を尊重したやわらかくあたたかみのある雰囲気だが、時にキャラクターをファジーに動かしたり、デフォルメの効いた場面が挿入されたりして、アニメーションならではの面白味が随所に感じられた。作品世界を緻密に構築してみせた原作という固いコアがあるがゆえに、その周辺の肉付けに存分を力を発揮できている感じがする。原作とアニメの関係性としては、かなり幸福なものになっているのではないだろうか。 構成としても、中盤に大きな目標であるファリンの奪還(蘇生)を果たした直後に、再び大きなアクシデントを起こし次の大目標が設定され、視聴者を飽きさせないつくりになっている。
アニメでは、ファリン救出のカギが食事にあるかもしれない、ということが示唆され、道半ばで一区切りとなるが、まさに「ダンジョン飯」を問題解決の核心にもってくる、この勢いで原作も読んでしまおうかしら。
オープニング、エンディングの楽曲はどれもさわやかでよかったですが、とりわけ2クール目のエンディング、リーガルリリー「キラキラの灰」は出色!