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露悪とリアリティ、あるいは真のアイドル────『Wake Up, Girls!』感想

Wake Up,Girls!

 『Wake Up, Girls!』をみたので感想。

 2014年、仙台。弱小芸能事務所からデビューしたアイドルグループ、Wake Up, Girls!。いつの日か大舞台に立つ日を夢見て活動を続ける彼女たちだが、アイドル活動へのモチベーションはさまざまで、また事務所のバックアップも十分でなく、前途多難。アイドルの頂点、I-1clubと並び立つ日は来るのだろうか…。

 山本寛原案・監督によるアイドルアニメ。2014年放映。このテレビシリーズは劇場版、『Wake Up, Girls! 七人のアイドル』の直接の続編で、社長が資金を持ち逃げして夜逃げしてから、クリスマスのささやかなライブを経て、どうにか活動の道を模索するところから始まる。

 正直言って、視聴にしんどさを感じるアニメである。劇場版の時点で高水準とはいえなかった作画は、テレビシリーズでさらに厳しさをまし、放映当時から評判は芳しくなかったように思うが、いまみてもやはり全体としてよいとはいえない。ライブシーンなど作画カロリーも高いと思うので、かなりの苦労があったと推察はするのだが…。

 視聴の際のストレスで言えば、そうしたルック以上に、キャラクター造形のほうが厳しいものがあった。登場する芸能関係の大人たちがそろいもそろって職業上の、あるいはそもそも人としての倫理が欠落しているように感じる人物造形で、劇場版で資金を持ち逃げした女社長はいけしゃあしゃあと戻ってくるし、マネージャーの男はいつまでも頼りないし、WUGのプロデューサー的立ち位置の早坂やヒール役であるI-1clubのゼネラルマネージャー、白木はパワハラモラハラ野郎だしで、とにかくなんらかの不快感を呼び起こす。そうした大人たちの露悪的ともいえる至らなさ、汚らしさは、もしかしてある種のリアリティを担保するための戦略なのかもしれないが、それはうまくいっておらず、作り手の人間に対する観察の底の浅さを暴露するものになっている。

 さて、このアニメの見所といえば、アイドルにかかわる描写よりも、東日本大震災からおよそ3年という時期に放映された、かなり早い時期のポスト震災アニメであることで、終盤、WUGが合宿で訪れる、傷跡も生々しい気仙沼の描写は、当時からさらに震災との時間的隔たりが大きくなった今だからこそ、余計に胸に迫るものがあった。そのあたりのことは山本もインタビューで直截に語っているが、最終話の白木のやや唐突な語りのなかに、山本の問題意識が反映されているという気がした。

ascii.jp

 

 さて、結局のところ、劇場版、テレビシリーズを通してみて、この作品に魅力をあまり感じなかったのだが、それはリアルタイムで「アイドル」の物語を体験することができないから、というのが結局のところ大きいのかもしれない。ここでいうアイドルは無論Wake Up, Girls!のことだが、それ以上に山本寛という作家のことも含む。

 かつて『シネマハスラー』のなかで、宇多丸山本寛が監督を務めた実写映画『私の優しくない先輩』を評して、「山本寛というアイドルの映画」と評していたようにうっすら記憶しているのだが、この『Wake Up, Girls!』もまた、山本寛というアイドルのアニメだったのだろうと思う。そういう種類のアイドルになってしまう魅力を、ある時期までの山本寛は持っていた。そこから遠く離れた今、そのことをやや懐かしく感じるのだった。

 

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