『F1/エフワン』をみたので感想。ブラッド・ピットは最高の男です。
かつて将来を嘱望されたF1ドライバーで、キャンピングカーで放浪しながら様々なレースに出場して日銭を稼ぐ高齢のレーシング・ドライバー、ソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)。デイトナ24時間レースでチームを優勝に導き、次のレースに向かおうとしたとき、旧友で、いまはF1チームのオーナーを務めるルーベン・セルバンテス(ハビエル・バルデム)が訪ねてくる。チームが低迷し、ドライバー探しも苦労している中、いまでも現役を続けるソニーをチームに招くルーベン。30年越しに、かつての夢の舞台に舞い戻ったソニーは、同じチームの若手ドライバー、ジョシュア・ピアス(ダムソン・イドリス)とともに、シーズン後半戦のレースに挑んでいく。
トム・クルーズと組んだ『トップガン マーヴェリック』が大成功を収めたジョセフ・コシンスキー監督の最新作は、F1を舞台にした、老ドライバーとルーキーを中心に据えた男のドラマ。スーパースターを映画の中心に据え、若者のメンター的な役割を担わせつつ、最後に花道を飾る(あと女性にもモテる)…というプロットの骨格は『トップガン マーヴェリック』を換骨奪胎したようであり、同作が極めて優れた娯楽映画であったのと同様、この『F1』も一点の曇りもない痛快娯楽映画になっている。
戦闘機という題材ゆえに「悪」を描かねばならなった『トップガン マーヴェリック』の苦しさ(先般のイランでの戦闘は否応なしに『トップガン』の純粋な映画としての楽しさを傷つけているでしょう)からは、レース競技を題材にしているがゆえに解放されていて、その意味で娯楽映画としての傷のなさは『F1』に軍配があがる。
そのレース描写も、実際に実車を走らせ無数のカメラを取り付けて撮影したという映像の迫力は見事というほかない。実際のF1のコースで撮影も行われたというし、またF1グランプリの統括団体であるFIAとの共同制作ゆえにグランプリの映像も使われているらしく、重厚なリアリティがある。『ラッシュ』や『フォードvフェラーリ』など、21世紀にも優れたレース映画は数あるわけですが、レースのスピード感と迫力ではこの『F1』が頭一つ抜けているのではなかろうか。
それでいて、レースの解説のかたちで適切に情報を提示して、観客がモータースポーツに親しんでいなくても物語への没入が妨げられない親切さ。ピットインでのタイヤ交換などを、カットを激しく割ってスピーディーにみせるのもスタイリッシュだったし、ヨーロッパ諸国、日本、ラスヴェガス、そしてラストを飾るアラブ首長国連邦アブダビなどのロケーションもゴージャスでうれしい。
老練のドライバー、ソニーは、映画序盤では反則すれすれの振る舞いを繰り返し、意外なほどのダーティぶりに驚いたが、勝つためのマシンを手にしてからはそうしたふるまいは影を潜めて王道主人公っぽくなったので一安心した。ソニーの設定として、かつてF1でも活躍した「伝説の男」のようにする方途もあったと思うが(『トップガン』はそういう感じだし)、そうではなく、かつて道半ばで舞台をおり、再び帰ってきたオールドルーキー的なポジションにしたのも好感。
レースで得られる莫大な金。それでも「金」ではない何かを求め続ける男の姿に、理想の映画を追い求めてきた/これからも追い求め続けるであろう、ブラッド・ピットという男の姿が重なり、またそこにかつて演じた『マネーボール』のビリー・ビーンの記憶も喚起されたりして、新たな代表作の出現を喜びたい気持ちです。
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ある種のアメリカイズムを体現する監督として、ジョセフ・コシンスキーはジェームズ・マンゴールドと並び立っている…という気がします。