小川哲『君のクイズ』を読んだので感想。
クイズ番組の決勝戦。1千万円がかかった最終問題で、「世界を頭の中に保存した男」とよばれるテレビタレント、本庄絆の不可解な早押し────問題がまったく読まれていないタイミングでの早押しの前に敗れた男。本庄はなぜ正解できたのか。番組にやらせがあったのか。そのクイズを解くため、男は本庄にかかわるありとあらゆる情報を収集しはじめ、そしてクイズ番組の決勝戦の様子を回想していく。
『ゲームの王国』、『地図と拳』の直木賞作家、小川哲の中編。クイズの問いかけと実人生の回想が組み合わさった語りの骨格は明らかにダニー・ボイル監督『スラムドッグ$ミリオネア』を参照していて、アカデミー賞作品賞を受賞した有名作に衒いもなくオマージュをささげる度胸というか工夫のなさに結構びっくりするところがあるが、そもそも『地図と拳』がガルシア=マルケス『百年の孤独』だったわけで、そのあたりの手つきは小川の得意とするところなのかもしれない。
本庄が魔法のように回答した問題の正答「ママ、クリーニング小野寺よ」は、一見名詞のように思えないし極めてローカルで、「わかるひとにはわかる」という塩梅のチョイスで惹きつけられる。最終的に、クイズというゲームだけでなく、プロデューサーが成功を期すテレビ番組であるというメタゲームまで読み切ったが故の正解、という落としどころも巧妙だった。
このあたりは増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』っぽいかもしれない。クイズをめぐるゲームとメタゲームは、木村政彦のゲームと力道山のメタゲームを想起させるところがあった。
ゲームとメタゲームの相克のなかで、それでもゲームの方に信を置くのは『ゲームの王国』の変奏か。『ゲームの王国』の記憶もだいぶあいまいなのだが…。
しかし、『響け!ユーフォニアム』や舞城王太郎『熊の場所』が作品中で言及されて結構素朴にうれしくなってしまい、クイズという営為が世界のほんの一端を切り取る技芸なのだというのが身をもってわからされてしまった感がある。その意味でうまくほだされてしましました。
