坂口安紀『ベネズエラ 溶解する民主主義、破綻する経済』を読んだので感想。
新年早々、トランプ政権によるベネズエラ攻撃、大統領夫妻の拉致という蛮行があっった。恥ずかしながらわたくしベネズエラについて政治状況をよく知らず、この機会にと思って手に取ったの坂口安紀による本書。地域研究の優れた成果がこうしてわたくしのような素人にも簡便に手にとれる一般書のかたちで流通していることに、日本語空間のありがたみを強く感じる。
本書は、おもにウゴ・チャベスが政権を握った20世紀末から2020年ごろまでのおよそ20年間のベネズエラの政治・経済の状況を紹介する。チャベスは1999年に大統領に就任し、「21世紀の社会主義」と反米を掲げ、主に貧困層からの熱狂的な支持を得た。トランプ政権が拉致したニコラス・マドゥロはチャベスの後継者で、政策的にもチャベスのものを継承している。
石油を主要な輸出品としているベネズエラは、国際石油価格が高騰していたチャベス期には経済も好調だったが、マドゥロが大統領に就任後、原油価格が低下したことでにっちもさっちもいかなくなり、経済は大きな打撃を受けることになる。それとパラレルなかたちで、マドゥロはチャベス期以上に法を軽視した統治を行うようになり、国内の治安も急速に悪化。2020年ごろまでに、国民の6人に1人が国外に脱出しているという。
この、本書が「民主主義の融解」と表現する政治状況は暗澹たるもので、国会の選挙にあたっては自身に反対する勢力を議会から排除しようと試み、裁判所も影響下に置いて三権分立も無化、また法の裏付けなしに強権的な施策を次々実施するなど、強烈なインパクトがある。これらはマドゥロ期に一層強まり、かつて機能していた制度が働かなくなっていくが、それを読んでいるだけで暗い気持ちになってくる。
本書を読むと、肯定的にチャベスのベネズエラを語る記事は流石に目が曇っているのでは、と思わざるを得ない。西谷修ほどの知性がなぜチャベスに肩入れするのか、まったく理解に苦しむのだが…。
本書はベネズエラの状況を踏まえ、なにか民主主義にかかわる教訓とか普遍的ななにかを抽出したりとか、そういうことには極めて禁欲的である。それはこの本の読者それぞれの仕事、ということなのだろう。
本書が素描する、目も覆いたくなるベネズエラの悲惨、チャベス、マドゥロの支配の悪辣さを踏まえてなお、それでもトランプ政権によるベネズエラ侵攻は絶対に肯定はできない。しかし、ここから権威主義体制を打倒する道筋がどのようなものになるか、わたくしごときでは想像もつかないのだが…。
