『灼熱の魂』をみたので感想。
突然亡くなった母。残された双子。母の遺言には、父を、そして兄を探せという言葉。それに従い、母の故郷である中東の某国を訪ねる娘。明らかになる母親の過去。それは想像を絶する、苦難の遍歴であった。
2010年公開の、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の出世作。レバノン出身、のちにカナダ・ケベック州に移住した劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲『焼け焦げるたましい』を原作とする。ヴィルヌーヴもカナダのケベック生まれ、父親は公証人だったらしく、それが公証人が大きな役割を果たすこの物語と共振するところがあったのだろうか。
作中でレバノンという国名は出てこず、都市名も架空のようだが、1975年から1990年にかけてのレバノン内戦を明白なモチーフにしている。わたくしはレバノンについてよく知らないし、内戦のこともそうなのだが、それが理解の妨げになるというよりは、その無知こそがこの映画の衝撃を一層鋭利なものにしている。
生き別れになった息子の運命はさながらギリシャ悲劇『オイディプス王』のようで、映画全体も現実の戦争を下敷きにしながらも神話的な雰囲気が漂っている。ヴィルヌーヴ監督はのちに手掛ける『DUNE』で壮大で神話的な画面を提示したが、この『灼熱の魂』は(SF叙事詩ではないからそうなんだが)そこまで大仰ではなく、むしろ中東のロケーションを活かしたリアリズムに徹している。このあたりの空気感は後の『ボーダーライン』等々のフィルモグラフィとも通じる。
ロケーションからは英語圏のかおりがしない映画ではあるが(ケベック州はフランス語やんなそもそも)、冒頭やいくつかの場面で印象的に流れるレディオヘッドでなんとなく英語圏の作り手の映画みたいな感じはしてくる。

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