
『パリに咲くエトワール』をみたので感想。今年のアニメ映画の充実ぶりはすばらしいですね!
1912年、フランス、パリ。絵画の勉強のため、画商をやっている叔父の付き添いで異国の地を踏んだ継田フジコ。時に周囲から奇異の目でみられながらも、快活な性格もあってアパートの住民たちやパサージュの人びととも心地よい関係を築き、憧れの場所で青春を謳歌していた。そんな折、一度横浜の劇場でバレエを観劇した際に出会った、薙刀道場の跡取り娘、園田千鶴と再会する。フジコと同年代の彼女は、薙刀術を西洋に広めるべくパリにわたった両親に連れられ、海を渡っていたのだった。千鶴が内心、バレリーナに憧れていることを知ったフジコは、彼女に協力し、強い力で背中を押し始めるのだったが、前途には暗い戦争の予感が立ち込めてもいた。
『スクライド』、『コードギアス 反逆のルルーシュ』の谷口悟朗監督による、劇場オリジナルアニメーションは、20世紀初頭のパリを舞台に、二人の少女の成長を描く。超自然的な力は排され、少女たちの葛藤をドラマの中核に据えたつくりは、世界名作劇場的な雰囲気がある。脚本は『リズと青い鳥』の吉田玲子、キャラクター原案には『魔女の宅急便』の近藤勝也という布陣で、近藤のエバーグリーンな質感のキャラクターは、スタジオジブリの系譜をほのかに感じさせる。
とにかく画面が魅力的な映画で、インタビューによれば2度のロケハンをもとに再現したというパリの町並みはすばらしく、この映画の魅力の一端を担っている。セーヌ川やエッフェル塔、パサージュといったパリのランドマークが印象的に描かれていることはもとより、フジコが暮らすアパートなど生活空間も丁寧に設計されていて、みていて楽しい。フジコは叔父の不始末の迷惑をこうむるかたちで緑にあふれた高級アパートから、モンマルトルの高台に建つアパートの屋根裏に引っ越すが、このどちらも印象的なロケーションになっている。
そうした卓越した美術の上で、キャラクターには極めて丁寧な芝居がつけられていて、かつパリの街をゆく無名の人物たちもよく動いていて、それが作品世界に豊かな奥行きを与えている。バレエや薙刀のアクションの異様なまでの力の入り具合には驚嘆するが、そうした派手なシークエンスと同じくらいの比重で日常の所作をよく描いていて、画面をみているだけで快が生まれてくる。
フジコと千鶴のドラマは、千鶴がパリのオペラ座の舞台に立つことを目指すシンデレラストーリーと、それを陰から支えるフジコが画業での自己実現に困難を感じて煩悶する、という陰のある展開という二重構造になっていて、両者がからみあって進行しクライマックスでそれが一つの流れに結実するという構成。千鶴もバレリーナとして壁にぶつかって悩む展開はあるが、叔父の失踪により生活の困難に陥り絵画の勉強どころではなくなり、またパリの新進の画家たちの才気の前に大きな挫折感を覚えるというフジコのストーリーラインは一層切実感があり、フジコと千鶴のドラマをどちらもシンプルなシンデレラストーリーにしなかったバランス感覚に大きな好感を持った。
そんな彼女たちのドラマと並行するかたちで、わたしたちが第一次世界大戦として知る大戦争がはじまり、パリも不穏な空気が漂ってくる。まさに世界情勢が不穏にみちたいま・ここのわたしたちとこの映画が奇妙に共振していることは、明らかに不幸なことではある(企画の段階ではまさか想定もしていなかっただろう)が、そのことがフジコと千鶴という二人の少女と周辺の人物たちの寄る辺なさとわたしたちとの距離を近づけているような気もする。
とはいえ、映画のなかではフジコと千鶴は戦禍に直接さらされることはなく、微温的な結末が用意されてはいる。しかし彼女たちの行く末には、関東を襲った大地震、そしてもうひとつの戦争が待ち構えていることを現代のわたしたちは否応なしに知っているわけで、それでもなお、不穏な時代にあって、それでもつかのま確かに瞬いた星の記憶を刻んだこの映画には、なにがしかの希望が託されていたように思うのだった。
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20世紀初頭のパリという、まさにマルセル・プルーストが息をして歩いた世界が、(無論デフォルメされ脱臭されているとはいえ)こうしてアニメのなかに立ち上がっていることに、素朴にうれしさを感じたのだった!amberfeb.hatenablog.com

