『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』をみたので感想。
ライバル選手に暴漢をけしかけて怪我をさせ、オリンピック出場を勝ち取ろうとしたとされるアイススケート選手、トーニャ・ハーディング。彼女はいかなる人生をたどってきたのか。そして暴行事件の真相とは。
2017年公開、実在のスケート選手と彼女が巻き起こしたスキャンダルにフォーカスした伝記映画。監督は、今年『スーパーガール』の公開が控えるクレイグ・ギレスピー。主演のマーゴット・ロビー、その母を演じたアリソン・ジャネイはアカデミー賞にもノミネートされ、ジャネイは見事助演女優賞を勝ち取っている。
スポーツものというよりは救いのない家族関係にフォーカスしているという感じで、つるまいかだ『メダリスト』が光のスケート漫画だとしたらこちらは完全に闇のスケート映画である。すこしの刺激ですぐさま暴力が発露する環境で育ったトーニャは、パートナーにも暴力的な男性(『ウィンター・ソルジャー』のセバスチャン・スタンがこの情けないDV男を演じている!)と惹かれあい、もちろん蜜月は長くは続かず暴力に満ちた日々が訪れる。
トーニャ・ハーディングという名と分かちがたく結ばれるその事件を、この映画はそうした暴力に満ちた家庭環境から生じた反応の一つとして描いているようであり、その帰結するところとして、アイススケート界で追放の憂き目にあった後のボクサーへの転向も描いている。
スポーツエリートの世界に似つかわしくない、血の気も引くような暴力事件を、この映画はことさら悪として描いているわけではなく、かといって無論肯定もしない。そのような醒めた目線がこの映画の美点の一つだろうと思う。ポール・ウォルター・ハウザー演じる元夫の友人(『リチャード・ジュエル』以前にこんなはまり役を演じていたのか!と驚いた)が暴行事件の実行犯の一人になるわけだが、トーニャも周囲の人物も、暴力に対する衒いというかためらいがなさすぎるのだ。
しかし、アイススケートという続けるために多額の資金が必要とされる競技で、(作中何度もその苦労が描かれてはいるが)こんなにも荒廃した家庭環境の選手が一線級で活躍していたのは、なんというか摩訶不思議である。エンドクレジットで流されるトーニャの滑りは、映画の先入観もあるかもしれないがとてもパワフルで魅力に満ちている。本編ではマーゴット・ロビー自身とスタントマン、CGを駆使してまったく違和感なくスケートシーンが演出されていたが、やはり本物はちがうと思わされたのだった。

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