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戦争の昭和100年────井上寿一『新書 昭和史』感想

新書 昭和史  短い戦争と長い平和 (講談社現代新書)

 井上寿一『新書 昭和史 短い戦争と長い平和』を読んだので感想。

 本書は日本近代の外交史を専門とする著者による、昭和の通史。特徴的なのは、1926年という昭和の始点から、2025年という現在——昭和100年にあたる——までを扱っていることで、特に最後の章を丸々ポスト昭和時代の叙述にあてていて、素朴に驚いた。

 近年出た歴史学者による簡便な昭和の通史としては古川隆久による2016年出版のものがあるが、叙述の目配りとバランスのよさでは古川の著書に軍配があがると思う。

 それだけで大きな瑕疵というつもりはないが、井上による本書では日本国憲法制定にかかわる叙述が皆無で結構おどろくし、東日本大震災には触れているが、阪神淡路大震災についてはスルー。同年の地下鉄サリン事件は扱われている。

 あとがきでスティーヴン・キング『ザ・スタンド』のような群像劇をめざしたと書いていて、群像劇という形容は確かに本書の語りの特徴を表しているなと感じた。俯瞰的な叙述に禁欲せず、たとえばダイエーの中内功や、村上龍や村上春樹らなど著名人・非著名人の経験にぐっとクローズアップして歴史的な出来事に迫ってゆく感じがあって、とりわけ戦争によってアジア各地を移動し地獄のような体験を経た後、実業家として功成り名遂げることになる中内は、ある場面では主人公のように扱われているとも感じる。

 さて、本書のサブタイトルは「短い戦争と長い平和」とあるがこれが結構ミスリードで、著者は昭和100年を絶え間なくなんらかの戦争(あるいはその可能性)が続いた時代として表象している。以下の目次タイトルをみればそれは明らかだろう。


1章 平和のなかの戦争の予兆 一九二六~一九二九年
2章 非常時小康 一九三〇~一九三六年
3章 戦争をめぐる理想と現実 一九三七~一九四〇年
4章 戦争と平和の間 一九四一~一九四四年
5章 国際冷戦と国内冷戦 一九四五~一九五二年
6章 高度経済成長下の戦争 一九五三~一九七〇年
7章 ヴァーチャルな戦争 一九七一~一九八九年
8章 終わらない戦争 一九九〇~二〇二五年

 とりわけ、アジア太平洋戦争後の6、7、8章のタイトルはいずれも「戦争」と冠していて目を惹く。著者は戦後も国内での内戦の可能性があったこと、過激化した学生運動はまさに「革命戦争」として戦われていたことにフォーカスして、この時期の歴史を叙述する。それは現に学生運動を同時代の出来事としてながめていた著者の実感によるところも少なくないだろう。

 その意味で、著者の個性が強く出ているように感じられる後半をとりわけおもしろく読んだのだった。あまり詳しくない人が手に取る一冊してはおすすめしかねるところはある(それだったら古川『昭和史』をすすめる)のだが、おもしろく読みました。