松原隆一郎『失われた景観 戦後日本が築いたもの』を読んだので感想。
本書は、日本列島の各所にみられる、無個性でけばけばしいロードサイドの風景、あるいは開発によって生じる十把一絡の住宅街等を強く批判する。出版は2002年で、さすがに20年以上前の新書だからいまでは新品では手に入らなそうだが、こうした景観論、景観批判の著作ではしばしばひかれる古典だと思う。
主張自体はいまとなってはそれほど新奇に感じられないというか、それは本書が適切に古典になったということだとも思うのだが、本書出版から20年のなかで縮小再生産されていった原型がこれなんだろうなという感じをもった。
そうはいっても、具体的に事例を挙げているところはいま読んでも結構おもしろい。著者の故郷であり阪神淡路大震災で大きく傷ついた神戸を、震災以前の無軌道な開発の延長として災後復興を捉えるあたりは著者の原体験というか思い入れが幸福に機能していると感じる。また、真鶴町の事例では、条例化された「美の基準」を、とりわけその手続き、デュープロセスに着目して高く評価しながらも、必ずしも住民に理解が浸透していないことに疑問を投げかけるバランス感覚が見事。
おもしろかったのは電線をめぐる議論で、都内の電柱地中化は現都知事の小池百合子が公約とし、いままさに条例なんかもできつつあるようで、これは著者の主張がうまいこと現実化しているだろう。
著者は小池との共著も出している。
一方で、もう5年も前になるが、練馬区美術館では「電線絵画」展も催されたりして、著者が批判する電線によって切り裂かれるランドスケープが、もはやヴァナキュラーな景観としてとらえられつつあるのも感じる。これは『新世紀エヴァンゲリオン』はじめポピュラーカルチャーの影響か、あるいは小池都政へのアンチテーゼか、判然としないが…。


