前クールで、最も注目を集めたアニメが『ガッチャマン クラウズ』であったことは間違いない*1。その先の読めない展開と現代的なテーマによって、『ガッチャマン クラウズ』は今年のテレビアニメの中でも最高の面白さを誇っている。
『ガッチャマン クラウズ』 は超前衛的社会派アニメだった! - 宇宙、日本、練馬
その監督を務めたのは中村健治氏であるが、氏は間違いなく、今後のアニメ界を牽引していく存在になるのではないか(あるいはもう牽引する存在の一人かもしれない)と思う。その中村氏がはじめて監督を務めたのが、2006年にノイタミナ枠で放映された『怪 〜ayakashi〜』の一編「化猫」である。「化猫」は大きな反響を生み、続編である『モノノ怪』が製作されるに至るのだが、この「化猫」と『モノノ怪』*2、『ガッチャマン クラウズ』で大盛り上がりを見せている今こそ、見直す意味があるんじゃないかと思う。以下で、『モノノ怪』の魅力、そしてそれが『ガッチャマンクラウズ』にどうつながるのかを書き留めておきたい。
先の読めない展開―『モノノ怪』は一級のサスペンスである!
『モノノ怪』は、江戸時代の日本を舞台に、謎の薬売りが妖怪にまつわる事件を解決しようとする、和風ホラー作品である。ホラー作品であるから、肝が冷えるような恐ろしい場面があるのだが、その面白さの本質は「怖さ」ではなく、いわゆる「犯人探し」の面白さ、つまりサスペンス的な作劇にある。なぜ、妖怪退治が「犯人探し」になるのか。それは、本作の妖怪が(多くの場合)「人の業」から生じた存在であるからだ。それが生じた原因となる人物や物事を探るのが、薬売りの役割なのである。
『モノノ怪』の第一の魅力は、「犯人探し」のサスペンスの面白さにある。特にこれは、「化猫」において顕著に表れている。「化猫」では、事件の舞台の事情を何も知らないが、特殊な能力を持つ薬売りと、舞台の事情はやや知っているものの、基本的に無知である下働きの加世が、主体となって妖怪に立ち向かう。これはまさしく探偵もののフォーマットであるといえよう。ホームズ役の薬売りとワトソン役の加世というわけだ。ここまで単純化できる構図は、『モノノ怪』ではみられない(と思う)ものの、謎に挑む薬売りというモチーフは共通して存在する。こうした見方をすれば、本作がサスペンスである、という意味がお分かりいただけただろう。
そして、『モノノ怪』は単なるサスペンスではない。間違いなく一級のサスペンスである。ネタばれは避けたいので具体的な記述は避けるが、二転三転する、先の読めない展開は、初見の人間の度肝を抜くに違いない。初めて「化猫」をみた時の、冷や水を全力でぶっかけられたような感覚をいまでも鮮明に覚えている。
この感覚は、良質な脚本あってこそのものだが、それ以上に、感情をよりダイレクトに、強烈に揺さぶるような演出あってはじめて、これほどまでに人間の魂を揺さぶれるのだろうと思う。
この物語の見せ方は、『ガッチャマンクラウズ』の魅力とも通ずる部分があるんじゃないかなあ、と思う。既に中村氏の監督としての技量は、初監督作品にしてあますことなく発揮されていたのである。
「いかに想像させるか」―語り口の絶妙なセンス
『モノノ怪』は、結構えぐいアニメだ。平たく言えば、エロとグロがそこかしこに溢れている。それは、本作が「人の業」をテーマとした作品故なのだろうが、それらのエロ・グロは直接的に描写されることはほとんどない。その理由は、以下の中村監督のインタビューを参照すれば理解できる。
中村 リンゴを描くのは誰でもできるんです。もっと豊かなイメージを喚起したいんですよね。「化猫」や『モノノ怪』では、どうしても作品自体にエロ・グロの一面が入ってしまう。だから、全てを直接的に描かずに、いかに想像させるかというのが重要なんですね。だから、豊かなイメージを描くことを、スタッフには求めていました。
『モノノ怪』+「化猫」Blu-ray Box付属の冊子より抜粋
この、視聴者に想像させる、という演出の方針は、『ガッチャマンクラウズ』にも色濃く表れているのではないか。特に最終話の、はじめとカッツェの決着のつけ方なんかは、もろに視聴者の想像にゆだねられたもののように思える。こんな所でも、『モノノ怪』で培われた演出のセンスが光っているんじゃないか。
以上、こんなことを書いてみたが、『モノノ怪』の魅力を十分に伝えられたとは、もちろんいえない。また『モノノ怪』については文章をかきたいなあ。
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