『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』を鑑賞。監督がマシュー・ヴォーンから変わっていたので結構不安だったりしたんですが、内容は前作とそん色ない感じで大満足でした。スターズ・アンド・ストライプス大佐にもっと活躍して欲しかったとかはあるんですが、ともかく面白かった。これを書いている5月9日時点で、もう観てから2か月立っているのであれなんですが、ともかく感想というか、考えたことを書いておきたいと思います。
キック・アスとマザー・ファッカーのコントラスト
本作でもっとも印象に残っているのは、キック・アスとマザー・ファッカーとの対比。それぞれが、結局のところ「普通の人」にすぎないにも関わらず、かたや正義のヒーロー、かたや悪の親玉へと歩を進めていく。この両者は、マザー・ファッカーはそもそもマフィアのボスの息子という強烈な属性はあるにせよ、ほとんど特徴のない人間であるというところで共通していて、それぞれが同じコインの裏表であるように読めると思うんですよね。
その二人が、作中で「大事な人」を失うことによって、もう後戻りできないところまで踏み出してしまう。『キック・アス』の世界観で「トラウマ」による決意、自己形成みたいなお話をやるのは、ハンニバルなんかとは意味合いが違う。斉藤環さんが『心理学化した社会』で指摘しているような、90年代に流行した、「トラウマ」を抱えてゆがんだ人間、その強烈なパロディとして、キック・アスとマザー・ファッカーはとらえることができる。「心理学化した社会」の中で、普通の人間が「心理学」的な知見を自家薬籠中のものとして自己認識し、地獄へと足を踏み入れてしまう。
そういう意味では、『ジャスティス・フォーエバー』はとんでもなく恐ろしい話なんじゃないかと思う。
「ヒーロー」不在の地獄
そのキック・アスとマザー・ファッカーのパロディ化された、凄惨な闘争の果てにあるのは、まぎれもない地獄じゃないかと僕は感じた。ラストでヒット・ガールが町を出てしまうあたりに、それを強く感じた。
ヒット・ガールは、作中で唯一漫画的・超人的な「ヒーロー」として描かれてきたように思う。スターズ・アンド・ストライプス大佐は、強いと言ったってあっけなく死ぬ。前作におけるビッグ・ダディもそうだ。その意味で、彼らは超人的な「ヒーロー」ではなく、「ヒーロー」ごっこに興じる一般人にすぎなかった。
しかしヒット・ガールは違う。多勢に無勢はモノともせず、スクールカーストも足蹴にできる。完全無欠の「ヒーロー」としてのキャラクターを印象付けるためにこそ、『ジャスティス・フォーエバー』には場違いな学校内の階級闘争のお話を挿んだんじゃなかろうか。
そんなヒット・ガールがいなくなった町は、ヒーロー不在の地獄だ。しかしそれでもキック・アスたちジャスティス・フォーエバーは戦い続けることを決めたのだろう。刺されれば死ぬ生身のヒーローとして。作中で何度も繰り返される、正義は死なないという宣言。しかしヒーローは死ぬ。それでも戦い続けるキック・アスの明日はどうなる。
キック・アス ジャスティス・フォーエバー [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
- 発売日: 2014/07/02
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【作品情報】
‣2013年/アメリカ、イギリス
‣監督:ジェフ・ワドロウ
‣脚本:ジェフ・ワドロウ
‣原作:マーク・ミラー、ジョン・ロミータ・Jr
‣出演 (日本語吹き替え)
- デイヴ・リズースキ / キック・アス: アーロン・テイラー=ジョンソン (佐藤拓也)
- ミンディ・マクレイディ / ヒット・ガール: クロエ・グレース・モレッツ (沢城みゆき)
- クリス・ダミーコ / マザー・ファッカー: クリストファー・ミンツ=プラッセ (勝杏里)
- サル・ベルトリーニ / スターズ・アンド・ストライプス大佐: ジム・キャリー (山寺宏一)
- ハビエル: ジョン・レグイザモ (丸山壮史)
- マザー・ロシア: オルガ・カーカリナ (くじら)
- マーティ・アイゼンバーグ /バトル・ガイ: クラーク・デューク (岡哲也)
- ナイト・ビッチ: リンディ・ブース (塩谷綾子)
- ドクター・グラビティー: ドナルド・フェイソン
- マーカス・ウィリアムズ: モリス・チェストナット (遠藤大智)
- デイブの父: ギャレット・M・ブラウン
- トッド・ハインズ /アス・キッカー: オーガスタス・プリュー
- インセクトマン ロバート・エムズ(辻本耕志)
- トミーズダッド(リメンバートミー): スティーヴン・マッキントッシュ
- トミーズマム(リメンバートミー): モニカ・ドーラン
- チンギス・半殺し: トム・ウー
- 腫瘍(ザ・トゥーマー): アンディ・ナイマン
- ブラック・デス: ダニエル・カルーヤ
- ラルフ・ダミー:コ イアン・グレン
- ハビエルのサイドキック: エンゾ・シレンティ
- アンジー・ダミーコ: ヤンシー・バトラー
- ケイティ・ドーマ: リンジー・フォンセカ
- ブルック: クローディア・リー