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小市民的ミニマリズム────アニメ『小市民シリーズ』「春期限定いちごタルト事件」・「夏期限定トロピカルパフェ事件」感想

第9話 スイート・メモリー(前編)

 アニメ『小市民シリーズ』をみたので感想。

 高校に進学した小鳩常悟朗と小佐内ゆき。お互いその性向から人間関係においてトラブルを招くこともあったと思しき二人は、平穏に日々を過ごすため「小市民」を目指す互恵関係を結ぶ。しかし意図せざる仕方で事件に巻き込まれることで、二人はその小市民性を必ずしも貫徹できなくなり…。

 米澤穂信原作による、所謂「日常の謎」の系譜にあるミステリ小説のアニメ化。2024年の夏に『春期限定いちごタルト事件』・『夏期限定トロピカルパフェ事件』を中心にアニメ化し、翌年には『秋期限定栗きんとん事件』、そして完結作たる『冬期限定ボンボンショコラ事件』がアニメ化される(と思われる)。わたくし原作小説は『冬季限定』以外は読んでいるのだがおおよそ内容を忘れており、新鮮な気持ちで視聴することになった。

 監督は『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』、『すべてがFになる』の神戸守。アニメーション制作は『さらざんまい』のラパントラック。実写を取り込んだエンディング映像は同作や劇場版『輪るピングドラム』を想起させ、抒情的でとてもよい。斎藤敦史によるキャラクターデザインは、原作の片山若子によるイラストレーションとは一線を画するが、小佐内さんのかわいらしいがどこか謎めいた雰囲気をまとうビジュアルは見事。

 特徴的なのはシネマスコープサイズで制作されていることで、1話・2話はそれぞれ神戸守、武内宣之による絵コンテがさえわたっていたものの、中盤はやや停滞し、最後2話で再び神戸がコンテを切って盛り返すようなかんじであった。

 同じく米澤穂信原作による、京都アニメーション制作の『氷菓』とどうしても比べてみてしまうようなところがあるのだが、古典部のメンバー4人を中心とする『氷菓』とくらべて、こちらは男女二人にスポットがあたっているので、よりミニマルで静的な印象を与える。これは、「わたし気になります!」のフレーズでパワフルに事態をけん引していく千反田さんと、静かに陰謀をめぐらす小佐内さんと、キャラクターがまさに対照的なことによる部分も大きいだろう。

 『氷菓』は、2クール目のオープニング「未完成ストライド」の演出で、古典部以外のさまざまな登場人物にフォーカスがあたっていたように、脇を固めるキャラクターも出番が短いながらもそれぞれ印象的だったが、この『小市民シリーズ』は小鳩、小佐内、堂島の3人以外はほとんど書割の背景のような感触で、そのあたりも作品の印象をミニマルなものにしている。とはいえ、そのあたりは『秋季限定』編で変わってくるのかもしれないとも思うのだけど。

 来年アニメ化される『秋期限定栗きんとん事件』編は、米澤穂信の真骨頂ともいえる「思春期の万能感」をめぐる極めて意地の悪い挿話なので、いまから楽しみにしています。

 

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