今年の劇場はじめは『キングスマン: ゴールデン・サークル』でした。めっぽう楽しかったです。以下感想。
麻薬王の放ったミサイルによって壊滅してしまった、独立諜報機関キングスマン。構成員の大半を失い、残されたエグジーとマーリンは、反撃の縁を探してアメリカ合衆国ケンタッキーへと渡る。そこで彼らが出会うのは、ウィスキー蒸留所を隠れ蓑にした、キングスマンのいとこともいえる存在、ステイツマンと、そしてかつての戦いで命を落としたはずの戦友だった。
『キングスマン』の続編は、まさしく続編であることを最大限に活かし、いきなりアクセル全開でロンドン市内を疾走する。前作の骨格にあったのはエグジーの成長譚という非常にお行儀のよいお話だったが、彼の成長はすでに前作で語りきったんだよなといわんばかりに、荒唐無稽なスパイアクションとしての楽しさに振り切った作劇。
スーツ姿でスタイリッシュ殺戮を繰り返すキングスマンの面々は相変わらずの素晴らしさで、加えてステイツマンの伊達男ウィスキーの二丁拳銃と投げ縄を駆使したガン=カタ風味のアクションは、尺こそそんなにないんだけどぶち上がりました。チャニング・テイタム演じるテキーラの出番の少なさには、スケジュール合わなかったりとかそういう事情があるんだろうか、とか思っちゃいましたが、まあそれはそれで。あとバイオニックコマンドーになって再登場した彼とか、凶悪なゾイドとか、楽しいガジェットに満ち満ちていて、それらを数え上げたらきりがない。
本作はマーク・ミラーによるコミックを原作としているわけですが、MCUはじめとするアメコミ映画はキャラ萌え映画である、と僕は思っていて、そう考えるとこの『キングスマン』はキャラ萌え映画として俳優と不可分のキャラクターの魅力を引き立てつつ、しかしそのキャラを退場=殺すことに恐ろしいくらいに躊躇いがなくてビビっちゃう。MCUなんかがいかにキャラクターの命を大事にしているか、というのを改めて感じました(『ソー:ラグナロク』の浅野忠信とかはだから結構な驚きがあったわけですが)。
そんなふうにキャラクターの命を投げ捨てていくスタイルのこのシリーズですが、前作に引き続き悪役がちゃんと理論武装している、かつあからさまに過激で破滅的なエコロジストだった前作に対して、ドラッグ合法化を訴える麻薬王ポピー、そして彼女の計画にフリーライドする形で、ドラッグ中毒者の全滅を画策する男は、なんというか正面切って論理的に否定することは結構困難では、という気がする。だからこそ、悪趣味な暴力描写を交えることで、お話的には「倒されるべき悪役」というラベルを貼るのだろうけど。
そして悪役どもを成敗するキングスマンたちも、そういうやつらの論理には一切耳を貸したりしない。奴らを成敗するのは自明のことだとでもいうばかりに、話し合いなど一切せずに暴力を執行する。その点でも、この映画は暴力で物語をドライブさせている、させ続けている映画だなという印象をもちました。こういう小気味いい暴力で信念を迎えられたことはいいことなのか、ちょっとわかんないけど、でも楽しいのでよいのではないでしょうか。
なんというか、この作品をみて、ああこういう『007』が作られる可能性もあったのかな、とちょっと思ったりもしました。『ムーンレイカー』路線の極北として。それはよかれあしかれ、ダニエル・クレイグのボンドが切り捨ててしまった可能性でもあると思うのです。
007 ブルーレイコレクション (24枚組) [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- 発売日: 2017/11/22
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログを見る
【作品情報】
▸2017年/イギリス
‣監督:マシュー・ヴォーン
‣脚本:ジェーン・ゴールドマン、マシュー・ヴォーン
‣出演
- ハリー・ハート - コリン・ファース(森田順平)
- ゲイリー・“エグジー”・アンウィン - タロン・エガートン(木村昴)
- ポピー - ジュリアン・ムーア(田中敦子)
- マーリン - マーク・ストロング(加藤亮夫)
- ジンジャー - ハル・ベリー(本田貴子)
- テキーラ - チャニング・テイタム(中村悠一)
- シャンパン - ジェフ・ブリッジス(菅生隆之)
- ジャック・ダニエルズ(ウィスキー) - ペドロ・パスカル(宮内敦士)
- ロクサーヌ(ロキシー)・モートン - ソフィ・クックソン(下山田綾華)
- チャーリー・ヘスケス - エドワード・ホルクロフト(櫻井トオル)
- ミシェル・アンウィン - サマンサ・ウォマック
- ポピーのボディーガード - ヴィニー・ジョーンズ
- ティルデ王女 - ハンナ・アルストロム(佐古真弓)
- アーサー - マイケル・ガンボン(長克巳)
- エルトン・ジョン(岩崎ひろし)