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映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

『海獣の子供』感想

 

「海獣の子供」オリジナル・サウンドトラック

 『海獣の子供』をみました。この作品について言葉で何を語っても、本当には語ったことにならないのではないかと慄くばかりですが、以下感想。

  海辺の町。中学生。夏休み。たわいもない級友との不和。学校にも家にもその居場所をみつけられない彼女は、水族館で謎めいた少年と出会う。南の海でジュゴンと暮らしていたという少年に導かれ、たったひと夏の、途方もない長い旅が始まる。

 五十嵐大介による同名漫画のアニメ映画化。原作は未読ですが、原作漫画のタッチとニュアンスをできうる限りくみ取っているのだろうな、という画、とりわけキャラクターの表情は、この映画のユニークな魅力の一つだろう、と思う。無論、それだけでこの映画のビジュアルの魅力を言い尽くしたことにはまったくならないにせよ。

 幾度も語られてきたひと夏のジュブナイルのごときボーイミーツガールから始まるこの映画は、そうしたありきたりな始まりからは想像もつかない場所まで観客を連れ去る映画である。たとえば学校空間での友人との和解や、家族の絆の再発見というような、いかにも我々が慣れ親しんだような、居心地のよい結末のために、この映画は語られるのではない。人の論理や理解をはるかに超え出た、海の、あるいは星の生命が経験する時間の流れ、空間のきらめき、そうしたものにわずかでも触れる、人の領域を超え出ていくような経験こそが、この映画の中核にあることは疑いようがないだろう。

 そうした人知を超えた経験を、ほかならぬ人の描いた絵の連なりによって立ち上がらせてみせたことにこそ、映画『海獣の子供』のすさまじさはある。「本当の約束は言葉では交わさない」というコピーは、決して裏切られることなく達成されている。「この映画には、言語を絶した経験がある」と言い募ることのなんと空虚なことよ。「言語を絶した」という決まり文句で作品を飼いならしてしまうことのなんと傲慢なことよ。しかしそれでも、やはり、これこそが唯一誠実な感想なのだ――少なくとも僕にとっては。この映画には、言語を絶した経験がある。

 

 

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「海獣の子供」オリジナル・サウンドトラック

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