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外に出れない男たち――桐生冬芽・御影草時・鳳暁生の『少女革命ウテナ』

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 『少女革命ウテナ』についてちょっと書き留めておきたいことがあるので、適当に。古い作品なので多分、どこかで同じようなことを考えている方がいるとは思いますが、とりあえず自分の思考の整理のために。

 「外へ踏み出す少女たち」の裏返し

 見終えた直後に、『少女革命ウテナ』は「アンシーが一歩踏み出す物語」である、と書いた。

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  それで、ある意味ではTV版の続きを描いているともいえる劇場版『アドゥレセンス黙示録』で、その一歩を超えてアンシーとウテナは「外の世界」へ飛び出した。

 

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  一方で、ウテナには「外の世界」に出れない男たちもいて。だからウテナは「外へ踏み出す少女たち」の物語とともに、「外に出れない男たち」の物語も描かれている。外に出れずに苦悶したり開き直ったりしている男たちとの対比があるがゆえに、そこから決然と一歩を踏み出すアンシーとウテナの物語が輝く。

 「外に出れない男たち」の典型というか、ひとつの到達点が鳳暁生だろう。だから「王子様」でなくなったにもかかわらず「王子様ごっこ」を続ける彼との対決が、作品の最後を締めくくる。また、生徒会編、黒薔薇編のクライマックスで敵対する桐生冬芽と御影草時もまた、「外に出れない男たち」だろう。この3人は多分、それぞれ違う仕方で「学園」に囚われ、「外の世界」に出れない。

 

桐生冬芽のメタとベタ

 桐生冬芽は、生徒会編では天上ウテナを一度破るなど、決闘者の中でも、なんというか、一味違う立ち位置にいる。一言で言うなら、どこか醒めている。一歩上の位置にいると言ってもいい。

フェミニストを自称しても、本気で人を愛したことなどなく、人は利用するものとしか思っていない。それが貴様の強さだった」

 西園寺のこの評は、流石生徒会として傍らにいたからか、鋭く一面をえぐり取っている。

 多くの女子生徒を籠絡するなど、ウテナと同年代にも関わらず、むしろ鳳暁生に近い雰囲気を纏ってさえいる。この鳳暁生との近さ、彼へのあこがれこそが、彼の強さの理由であり、しかし彼の限界をも決定づけた。

 35話「冬のころ、芽ばえた愛」と35話「そして夜の扉が開く」は、彼がウテナに決闘を挑み、そして敗北するエピソードなわけだが、それ以上に彼が暁生に敗れる挿話でもある。それはもちろん、恋愛で。

「俺もあの人のようになりたいんだ。あの人のような、力が欲しい」

 「憧れとは、理解からもっとも遠い感情だよ」とは久保帯人先生の生み出した中でも屈指の名言と思われますが、暁生にあこがれを抱いた時点で、桐生冬芽の敗北は決定づけられていた。ウテナをめぐるゲームで、彼は暁生に完全に敗北する。

 「プレイボーイの生徒会長」を演じてきた彼がウテナに本気で恋をしてしまった瞬間、彼は生徒会編の時点で醒めていた彼は、マジにならざるを得なくなった。醒めて一歩上の位置にいることを放棄した彼は、もはや優位性はどこにもない。言葉を飾れなくなった彼は結局、「俺の女になれ」としか言えない。メタからベタへとスタンスを変化させた彼の戦術は、あまりに無力で稚拙だった。いままでメタな立ち位置からゲームを眺めてきたツケは大きい。

 それこそが、「外に出れない男たち」の一人にした。彼は暁生にあこがれ、しかし暁生になりきれないがゆえに、作中では外の世界に出れなかった。ただ彼にも救いはある。作中では暁生に勝てなかったけれど、結局年月が彼を「学園」という暁生の重力圏から「卒業」させるだろうから。だから多分、彼はそのうち外に出て大人になっていく。それが彼と御影・暁生とを決定的に分かつ。

 

「学園」の呪い

「学園という庭にいる限り、人は大人にならないのさ」

 22話「根室記念館」で暁生のいう台詞は、御影と暁生を縛る呪いを端的に表していて、これ以上何を書くこともない、という気がする。しかし狂気に駆られた御影は、学園の論理を支配する暁生にいいように使い捨てられる。

「君が可能性を秘めたまま、大人になりきれずにいた時間は、役に立ったよ。でも、それも終わりだ。これから先、君の進む道は用意していない。君は、卒業してくれ」

 しかし御影にとって、ある意味これは救済だったのかもしれない。強制的に放逐されるという形ではあっても、「外の世界」に行けたのだから。「外の世界」に、御影の存在する余地があるかどうかは別として。

 一方的に「卒業」を宣告することができる暁生は、しかし自身を「卒業」させることはできない。全能の力を振るって「王子様ごっこ」に興じることはできても、結局それだけだ。誰にも「卒業」を告げられることはない彼は、永遠に「外の世界」に出られない。

 

 「外に出れない男たち」のモチーフは、幾原邦彦監督が後に手掛ける『輪るピングドラム』の渡瀬眞悧、また脚本の榎戸洋二氏の『STAR DRIVER 輝きのタクト』におけるミヤビ・レイジ(あるいはシンドウ・スガタ)にも継承されてるような気がするんですよねー、なんてことを思ったりしました。だいぶ適当に書き散らかしたのであとで追記なりなんなりするかも。しないかも。

 

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