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何度も立ち上がる―― 『モリーズ・ゲーム』感想

モリーズ・ゲーム (ハーパーBOOKS)

 『モリーズ・ゲーム』をみました。よかったです。以下感想。

  スタートラインに立っていた。先行したライバルたちは軒並み失策を犯し、もはや彼女はの栄光を阻むものはないように思われた。不幸は前兆なく人を襲う。代わり映えのない風景のなかに罠が潜む。そして彼女は転倒してコースを外れた。スキー場の?いや、人生の。

 『ソーシャルネットワーク』、『マネーボール』、そして『スティーブ・ジョブズ』と、名監督とタッグを組んでその都度傑作を送り出してきた脚本家、アーロン・ソーキン初監督作品は、近年の彼の作品同様、実在の人物を主役に据えて実話を基にしたドラマを語る。今回の主役は、モーグルのオリンピック選手候補から一転、セレブ達が集う賭場の元締めとなった女性、モリー・ブルーム。不意の転倒からあらぬ方向へ転がりだした彼女は、いかにして自分の人生を形作ってゆけばよいのか。

  アーロン・ソーキンが得意とする畳みかけるような会話の応酬、暴風のごとく吹き荒れる言葉の奔流は今作でも十二分に発揮されていて、それに身を委ねているだけで心地よい。『マネーボール』、『スティーブ・ジョブズ』でも中心的なモチーフになった父娘のドラマが、この『モリーズ・ゲーム』でも反復されるのだが、今回は父ではなく娘に寄り添うかたちでそれが語られる点で、先行する作品とは一線を画する。

 とはいえ、先行する作品群と精神性は共通していて、ビリー・ビーンジョブズも、なんど打ち倒されようが立ち上がることを恐れなかった人間なのであり、だからアバンタイトルで語られる彼女の転倒が、そこから立ち上がるというモーメントを含みこんでいるのはまた必然なのだ。

 矜持をつらぬいた彼女には、神の恩寵のごとき判決がくだるが、それにしても、彼女の立たされた逆境は絶望するにあまりある。ただ、立ち上がることはやめてはならない。立ち上がる限りゲームは続く。そしてゲームが続いている限り、勝ちの目は消えない。ここで賭けられるのは途轍もない金銭ではなく、ただ剥き出しの人生なのだから。

 

 

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【作品情報】

‣2018年/アメリカ

‣監督:アーロン・ソーキン

‣脚本:アーロン・ソーキン

‣出演

  • ジェシカ・チャステイン - モリー・ブルーム
  • サマンサ・イズラー - 高校生の頃のモリー・ブルーム
  • パイパー・ハウエル - 7歳の頃のモリー・ブルーム
  • イドリス・エルバ - チャーリー・ジャフィ
  • ケビン・コスナー - ラリー・ブルーム
  • マイケル・セラ - プレイヤーX
  • ブライアン・ダーシー・ジェームズ - ブラッド
  • クリス・オダウド - ダグラス・ダウニー
  • J・C・マッケンジー - ハリソン・ウェルストーン
  • ビル・キャンプ - ハーラン・シャープ
  • グラハム・グリーン - フォックスマン判事
  • ジェレミー・ストロング - ディーン・キース
  • マシュー・D・マテオ - ボビー
  • ジョー・キーリー - コール
  • ナタリー・クリル - ウィンストン
  • クレア・ランキン - シャーリーン・ブルーム
  • マディソン・マッキンリー - シェルビー
  • カーリッド・クライン - ニール
  • ヴィクター・サーファティ - ディエゴ
  • ジョン・バス - シェリー・ハビブ