宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

復活、新生────『劇場版モノノ怪 唐傘』感想

f:id:AmberFeb:20240726200738j:image

 『劇場版モノノ怪 唐傘』をみました。以下、感想。

 江戸時代、幕府の天子に仕える大奥の女中として、いままさにその中に入らんとするアサとカメ。男子禁制のそのなかで、まず大切なものを捨てよと命じられ、また生臭い水を飲むしきたりにまゆをひそめながら、新入りとして、数日後に控えた大餅曳のためにあわただしく過ごす。そのとき、もののけの気配をかぎ取った薬売りもまた、大奥の前に姿をあらわす。

 2006年に放映された『怪 〜ayakashi〜』、およびその翌年放映された『モノノ怪』の劇場版。15年以上の時を経ての続編で、制作過程でのトラブルはときたまSNS上をにぎわし、キャラクターデザインを務めた橋本敬史は降板、薬売り役は櫻井孝宏から神谷浩史へと交代した。

 しかしながら、監督の中村健治の手腕だろうか、画面の印象は『モノノ怪』の正統進化系ともいうべきユニークさを保っている。和紙の上に描画したような撮影効果、激しい色使いで時代劇的リアリズムからは遊離した絢爛な美術によって、唯一無二といえる画面を構築しており、それが大奥という舞台にふさわしくスケールアップし、ゴージャスなものになっている。絢爛な美術を映しつつ、クロスカッティング的に半ば錯乱したキャラクターを映し出していき、もののけによる惨劇が生じる演出が極めて強い印象を残す。

 事実上の主役といえるアサとカメを演じるのは、それぞれ黒沢ともよ悠木碧。現在のアニメシーンにおける演技巧者のツートップの共演といえるこの配役は抜群の効果を発揮していて、かたや新参者でありながら確固たる信念をかすかにあらわし、かたやプレッシャーに翻弄され怪異にも目をつけられる対照的なキャラクターが、それぞれ見事な存在感をもっている。とりわけ覚悟を決めたアサの声の調子の力強さは、『響け!ユーフォニアム3』といい、黒沢ともよという声優が余人をもって代えがたいパワーを持っていることを思い知らされる。

 この画面の強烈さと演技とがこの作品を確固たる映画にしてはいるのだが、ストーリーの次元での驚き、あるいはそれが喚起する薄暗い感情という意味では、正直言ってテレビシリーズと比べて一枚落ちる、と言わざるを得ないと思う。ヒロイン二人の魅力はともかくとして、登場するキャラクターたちが必ずしも有機的に機能しておらず、とりわけ、男子禁制の大奥に派遣された侍二人や、名家同士の権力争いなど、意味ありげな要素や大奥の外部を感じさせるモチーフがあるにもかかわらず、外部が閉じたまま終幕を迎えてしまう、悪い意味でのミニマルさは気になった。

 これはテレビシリーズが横手美智子小中千昭などの職人が担っていた脚本の仕事を、監督である中村健治とプロデューサーの山本幸治が担っているが故の瑕疵なのではないかと思料したりもするのだが、これはわたくしの敬愛する脚本家が『ハーモニー』での山本の仕事ぶりに苦言を呈していた記憶がそうさせたのかもしれない。

 ただ、この『唐傘』は次回『火鼠』に続くと予告されてもいて、上記のモチーフがそこで効いてくるのかもしれないが、『火鼠』が引き続き大奥を舞台にするとしたら流石に作品世界の広がりという意味で苦しくなってくるという気がするし、さしあたってこの作品だけで考えると、モチーフを持て余しているという以上の印象はない。

 とはいえ、これだけの時を経て見事に復活を果たした薬売り、次回も期待したいところです。

 

関連

amberfeb.hatenablog.com

 

2020年代中村健治監督の活躍、大いに楽しみです!

amberfeb.hatenablog.com