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幻を超え、頂点の先へ────『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』感想

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 『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』をみました。おもしろかった!以下、感想。

 我々の現実世界の競走馬の名前と宿命を受け継いで生まれる存在、ウマ娘。彼女たちは走るために生まれ、最高峰の舞台、トウィンクルシリーズで鎬を削る。フジキセキの鮮烈な走りに衝撃を受け、トウィンクルシリーズへと身を投じたウマ娘ジャングルポケットは「最強」を目指して邁進するが、彼女の前に無敗のウマ娘アグネスタキオンが立ちはだかる。上の世代には世紀末覇王とよばれるテイエムオペラオーが君臨するなか、ジャングルポケットは「最強」をその手につかめるか。

 ソーシャルゲームやアニメを中心に展開される『ウマ娘 プリティーダービー』、満を持しての劇場版は、ヤンキー少女風のウマ娘ジャングルポケットを主役に、彼女の最強を目指す戦いと葛藤を描く。アニメーション制作は昨年公開された『ROAD TO THE TOP』に引き続きCygamesPictures。キャラクターデザインは同作から継続して山崎淳で、ファジーな線を活かしたパワフルな描写は、『ROAD TO THE TOP』からさらに進化し、ギャグシーンでは『ぼっち・ざ・ろっく』ばりにキャラクターをメタモルフォーゼさせる自在ぶり。監督は名うてのアニメーターとして知られる山本健。

 作品世界も『ROAD TO THE TOP』から継続していて、同作の主人公ナリタトップロードはしばしば顔をみせ、同作でライバルでありトリックスター的なポジションでもあったテイエムオペラオーは、圧倒的な強者として立ちはだかる。

 再編集版がさきごろ劇場公開された『ROAD TO THE TOP』は、もともとウェブ公開されたものにもかかわらず映画と見劣りしない作品だったが、この『新時代の扉』はさらにスケールアップし、映画としての堂々たる風格を備えている。レースシーンの迫力は言わずもがな。圧倒的なスピード感と力強さを、ロングショットと接写、そして主観視点風のカットを巧みに織り交ぜ、見事に演出している。大地を蹴る足音の力強さ、そしてクライマックスのデッドヒートの外連味は、否応なしにこちらの胸を高鳴らせる。

 レースシーンを中心につないでいき、日常場面は横山克によるポストロック風の劇伴で流してゆく語りの手際も堂々たるもの。ジャングルポケットは言動は粗野だがひたむきで素直。この素直なキャラクター設定はナリタトップロードとも重なり、そこにドラマ性を付与することで、シンプルながら強固な骨格が形づくられている。ジャングルポケットがもはや永遠に勝つことがかなわないライバルの幻影に苦悩するさまを、回想シーン風に敗北レースのカットをつないで提示する場面は白眉だろう。

 彼女がその幻を突破し、その先の景色をつかむこと。そこに実質を与えたのは疑いなくアニメーションの力だといえる。『ウマ娘 プリティーダービー』はTVアニメ版シーズン1から、現実の競走馬をモチーフとしつつも「競走馬」ではなく「ウマ娘」であるということを一つのエクスキューズとして、現実の悲劇を飛び越える可能性を作品世界に書き込んできた。この『新時代の扉』においても、その力強い疾走が一度は走ることを止めたウマ娘を再び駆り立て、そして自身の苦悩をぶち破り、そして歴史を超えてその別様の可能性をフィクションに仮託して語ってみせた。それこそがアニメ映画の使命の一つだといわんばかりに。そのもう一つの可能性を、照れも衒いもなく、堂々と示してみせたことで、間違いなく「新時代の扉」は開いたといえるでしょう。

 

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