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薄氷の日常、暗黒の死────アニメ『浮浪雲』感想

浮浪雲

 『浮浪雲』をU-NEXTでみたので感想。

 江戸時代も終わりの足音が聞こえてきたころ。品川宿で問屋場の頭をつとめる男、浮浪雲は、妻のかめ、まだ幼い息子の新之助、娘のお花と暮らしていた。夜な夜な遊び惚けているようにみえるこの男は、しかし恐るべき武芸の技を隠し持っていて、それが奇妙な縁をつなぐことになる。

 1982年公開の、ジョージ秋山の同名漫画を原作としたアニメ映画。同時期に渡哲也主演の時代劇が放映されていて、その人気にあやかってのアニメ映画化だったようだ。その後、ビートたけし主演で再度ドラマ化、そして2026年現在は佐々木蔵之介主演で再リメイクされている。

 冒頭、雪の降り積もる中で新選組の隊士たちが討幕の志士を暗殺するシークエンスで、これはちょっと尋常のアニメ映画ではないぞ、という感じがみなぎるが、それもそのはず、絵コンテ、画面構成には若かりし頃の川尻善昭がクレジットされていて、後に『獣兵衛忍風帖』、『バンパイアハンターD』を手掛ける鬼才は、このころから圧倒的な存在感を放っていたのだと思い知らされる。

 全編がそうした緊張感によって律されているわけではなくて、息子の目からはだらしなくみえる浮浪雲と家族とのよしなしごとを描く日常ドラマ的なパートが多くを占めてはいて、しかし冒頭の残酷なシークエンスの記憶がそうした日常が薄氷の上に成り立ち、やがて崩壊するであろう予兆が漂っている。ジョージ秋山の画風は、当然のことながら現代の萌えアニメとは一線を画するが、浮浪雲の妻のかめは奇妙な色気を漂わせていて、あでやかな雰囲気の場面もあり、いったいこの映画はどういう層をターゲットにしていたんだろうと不思議な感じもする。

 映画全体のなかでのハイライトは、やはり坂本竜馬暗殺の場面で、エンディングクレジットで村野守美が特筆してクレジットされているが、それも納得の、異質で鬼気迫る場面になっている。漆黒の暗殺者たちが無慈悲に剣をふるって竜馬を殺害するさまを、抽象度を一気にあげた暗黒の画面で描くこの場面は、冒頭の殺陣と並んで、この場面だけで映画の格みたいなものを決定づけるシークエンスであった。

 しかし、この場面を演出した村野守美や監督の真崎守は漫画家としても多くの仕事を残した人物で、現在のアニメ制作者と比べると異質なキャリアなのでそれも結構不思議に思う。